夏の日差しが差す縁側に並ぶ、赤い梅を載せた二つの竹ざる
梅を並べる日には、取り込む場所まで支度しておきます。
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土用と言われて、夏しか思い浮かばなかったことはないでしょうか。

夏の土用は七月の下旬げじゅんから始まり、立秋りっしゅうの前日まで続きます。梅雨が明けて、気温がいちばん高くなる時期とほぼ重なる区間です。年に四度ある土用のうち、夏だけがこれほど有名なのには理由があります。この期間から生まれた日本語が、他の季節に比べて桁違いに多いのです。

土用干どようぼし、土用波どようなみ、土用三郎どようさぶろう、土用蜆どようしじみ、土用餅どようもち。どれも夏の土用にしかない言葉です。それだけ、暮らしのうえで重い十九日間でした。

夏の土用入りがわかる3つのこと

  1. 七月二十日ごろから、立秋の前日まで。 四回の土用のうち、いちばん長い区間です。
  2. 丑の日うしのひが二度入る年があります。 一の丑、二の丑と呼び分けます。
  3. 梅を干すのはこの期間です。 土用干しという言葉が、そのまま作業の名前になっています。

暑さの底で、予定を減らす

暦の話を離れると、この十九日は一年で最も体力を削られる期間です。ここで運を上げようと動き回るより、消耗しょうもうを増やさない側に振ったほうが現実的でしょう。

夏の土用に減らす5つ

  1. 炎天えんてん下の用事を、朝か夕方へずらす。 昼の二時間を避けるだけで違います。
  2. 庭や鉢の大きな作業を、涼しくなるまで先送りする。 秋にやっても間に合います。
  3. 寝室が冷えるかどうかを、寝る前ではなく夕方に確かめる。 熱がこもると眠れません。
  4. 週の予定から一つ抜き、移動の余裕にあてる。 乗り継ぎの十分が体を守ります。
  5. 判断が要る用件ようけんを、八月後半へ持ち越さない。 暑さのなかでは決めきれません。

土を動かすことを慎むという土用の言い伝えは、この季節に限っては実務と合っています。真夏の炎天下で穴を掘る作業がどれだけ危ないかは、暦の理屈りくつを持ち出すまでもありません。

土用干しは、梅だけの話ではない

土用干しは、この時期に梅を三日ほど日に当てる作業のことです。同じ言葉が、衣類や書物しょもつを虫干むしぼしする意味でも使われます。夏の強い日差しと、梅雨明つゆあけ直後の乾いた空気が揃うのが、一年でこの期間だけだからです。

梅の土用干し、3つの手順

  1. よく晴れた日を三日続けて選ぶ。 途中で雨に当てると、そこから傷みます。
  2. 朝に並べ、日中に一度だけ裏返す。 触りすぎると皮が破れます。
  3. 夜は室内へ入れず、夜露よつゆに当てる家もあります。 地域と家によって作法さほうが分かれます。

梅を漬けていなくても、この考え方は使えます。押し入れの奥、着物、革の鞄、本。湿気しっけを抜く作業には、この数日がいちばん向いています。

干す日の前に、取り込む場所も決める

梅を干す支度したくでは、ざるを置く場所と一緒に、取り込むときの場所も空けておきます。台所の作業台にざるが収まるか、持ち運ぶ道に物がないか。先に確かめれば、空模様が変わったときも動きやすくなります。初めて家の梅仕事うめしごとを手伝うなら、並べ方や夜の扱いを、その家で続けている人に聞いてみましょう。作業の様子を一枚撮っておくと、来年はざるや道具の準備から思い出せます。

土用のつく言葉が、夏にだけ増える

ここから言葉の話です。土用波は、遠くの台風から届く高いうねりを指します。海が穏やかに見えても、突然大きな波が寄せてくる。海水浴の季節と重なるため、注意を促す言葉として今も天気予報で使われています。

土用三郎は、土用に入って三日目のこと。この日の天気で、その年の作柄さくがらを占う風習が各地にありました。晴れれば豊作、雨なら不作ふさくという単純な見立みたてです。当たり外れより、農作業の節目ふしめに空を見上げる習慣があったこと自体がおもしろいところでしょう。

食べ物にも言葉が付いています。土用蜆は「腹の薬」と言われ、鰻より古くから夏の土用の食べ物とされてきました。あんころ餅を食べる土用餅、栄養をとる意味での土用卵どようたまごもあります。丑の日の鰻が有名になる前から、この期間には食べ物の習慣が積み重なっていました。

冬や春の土用に、これほどの言葉はありません。暑さで体を落とす人が多かったこと、農作業の山場に当たっていたこと。生活のうえで重い期間だったからこそ、言葉が増えたのだと考えられます。

四つのなかで、いちばん長い

土用の入りは、太陽の位置で決まります。立秋の手前十八度分の地点に達した日がそれで、日付は毎年ほとんど動きません。

ただし長さは季節によって違います。地球が太陽のまわりを回る速さは一定ではないため、太陽が同じ十八度を進むのにかかる時間が変わるからです。夏の土用は十八日と八分ほどで、四回のなかで最も長くなります。冬より一日以上長い計算です。

長いということは、この期間に丑の日が二度入る年が出てくるということでもあります。夏だけ「一の丑」「二の丑」という言い方があるのは、この日数の余裕から来ています。統計では、六割近い年に二の丑があるとされます。

もう一つ、夏の土用は梅雨明けとの兼ね合いで性格が変わります。明けが早い年は最初から炎天下が続き、遅い年は前半が蒸し暑い曇りのまま過ぎる。同じ十九日でも、その年の空模様しだいで体にかかる負担がまるで違ってきます。

よくある質問

Q. 夏の土用はいつからいつまでですか

七月二十日ごろから、立秋の前日までです。太陽の位置をもとに決めるので、日付は毎年ほぼ同じになります。

Q. なぜ夏の土用だけ長いのですか

地球が太陽のまわりを回る速さが一定でないためです。夏のあいだは進みがゆっくりなので、同じ角度を通り過ぎるのに時間がかかります。

Q. 土用干しはいつやればよいですか

梅雨が明けて、晴れが三日続く見込みの日を選びます。夏の土用の期間中であれば、日付そのものにこだわる必要はありません。

出典

  • 国立天文台 暦計算室こよみけいさんしつ「暦要項れきようこう 二十四節気にじゅうしせっきおよび雑節ざっせつ」
  • 土用干し・土用波・土用三郎・土用蜆・土用餅に関する年中行事の一般的な解説
  • 各種暦書れきしょにおける土用の期間の長さについての記述