
暑い盛りに手紙を書こうとして、書き出しの言葉に迷ったことはありませんか。
立秋は八月七日ごろにあたる節気で、暦のうえではこの日から秋が始まります。気温はまだ下がりません。真夏日も猛暑日も、これから続きます。それでも同じ暑さを指す言葉だけが、この日を境に入れ替わります。
天気予報で「暦の上では秋ですが」という前置きが毎年繰り返されるのは、このずれのせいです。体感は真夏のまま、日本語のほうだけが先に秋になる。立秋は、そういう不思議な位置に置かれた一日です。
立秋がわかる3つのこと
- 暦の秋は、この日から立冬の前日まで。 夏の終わりではなく、秋の一日目という扱いになります。
- 残暑は、気温ではなく日付で決まる言葉。 立秋より後の暑さだけを残暑と呼びます。
- お盆は、暦のうえでは秋の行事。 送り火も精霊流しも、立秋を過ぎてからやってきます。
暑中見舞いが残暑見舞いになる日
いちばん暮らしに近いのが挨拶状です。暑中見舞いは小暑のころから立秋の前日までに届くもの。立秋以降に届くものは残暑見舞いになります。文面も「暑中お見舞い申し上げます」から「残暑お見舞い申し上げます」へ移ります。
ここでいう残暑は、暑さが残っているという感覚を指していません。立秋を過ぎてからの暑さ、という日付の決まりごとです。九月に入っても暑ければ残暑ですし、立秋の前がどれだけ暑くても、それを残暑とは呼びません。
立秋の前後で気をつける4つのこと
- 出しそびれた暑中見舞いは書き直します。 相手に届くのが立秋以降なら残暑見舞いです。
- 残暑見舞いは八月いっぱいが目安。 九月に入ると、時候の言葉がまた変わります。
- 仕事の文書も同じ線で切り替わります。 「盛夏の候」から「晩夏の候」「残暑の候」へ。
- 俳句の季語も立秋で秋へ移ります。 蝉の声もお盆の情景も、秋の句として扱われます。
挨拶に、自分の見た景色を一つ添える
残暑見舞いの書き出しを決めたら、そのあとは身近な一場面で続けられます。「夕方に散歩する時間が少し早くなりました」「帰り道でヒグラシの声を聞きました」など、自分が実際に気づいたことを一つ。涼しくなったと無理に書かなくても、暑さの中で見つけた変化を伝えられます。相手の近況を尋ねる一文も添えると、季節の挨拶から会話が続きます。
秋の予定に、場所だけ先に空けておく
体感が追いつくのは、まだ先です。この時期に涼しいふりをして動き回っても、消耗が増えるだけでしょう。それでも立秋には、向いている使い方がひとつあります。秋に置きたいものの居場所を、先に確保しておくことです。
立秋のうちにできる3つの前倒し
- 秋に始めたい習いごとの日程だけ押さえる。 申し込みは涼しくなってからで構いません。
- 夏物を一枚だけしまう。 衣替えには早いので、量をあらかじめ一枚に決めてしまいます。
- 後回しにしていた用件に日付を入れる。 涼しくなったらやろう、では動けません。
暑いうちにできるのは、余白を作っておくことくらいです。それでも、九月に入ってから考え始めるより確実に軽く済みます。
千年前の歌人も、同じずれを見ていた
このずれは、今に始まったことではありません。古今和歌集の秋の巻は、藤原敏行の一首から始まり、秋が来たと目にははっきり見えないけれど、風の音に驚かされた、という趣旨の歌で、立秋の日に詠まれたものとされています。
平安の人も、暦が秋になった日に外を見て、景色は夏のままだと感じていたわけです。そのうえで、目ではなく耳で秋を見つけました。名前と実感がずれているからこそ、小さな兆しを探す。 その態度が、この一首には残っています。
手がかりは実際にあります。日の入りは夏至のころより三十分以上早くなっていますし、真上に立ち上がる入道雲に混じって、高いところの薄い雲が見える日が増えてきます。
ヒグラシと朝霧が並ぶ、立秋の七十二候
七十二候は、二十四節気をさらに三つに割った細かい暦です。立秋の三つは涼風至、寒蝉鳴、蒙霧升降と並び、涼しい風が立ち、ヒグラシが鳴き、深い霧が立ちこめる、という意味になります。
どれも、暑さが終わったとは書いていません。暑さのなかに別の気配が混じり始めた、という書き方をしています。寒蝉はヒグラシのこと。夕暮れにあの声が響くのを聞くと、日中の暑さと食い違ったまま季節が動いているのがわかります。
この期間にはお盆も入ります。京都の五山送り火が八月十六日、各地の精霊流しもその前後です。夏休みの真ん中という感覚とは裏腹に、暦のほうはもう秋の支度を始めています。
よくある質問
Q. 立秋はいつですか
八月七日ごろです。日付は太陽の高さから割り出すので、年によって一日ぶん動くことがあります。次の節気である処暑の前日までが、立秋の期間にあたります。
Q. 立秋の日に暑中見舞いを出してもよいですか
届くのが立秋以降になるなら、残暑見舞いとして書くのが一般的です。投函した日ではなく、相手の手元に届く日で判断します。
Q. 立秋なのに暑いのはどうしてですか
暦が気温ではなく太陽の高さで季節を区切っているためです。地面や海に熱がたまっていくので、暑さの頂点は暦より一か月ほど後ろへずれます。
出典
- 国立天文台 暦計算室「暦要項 二十四節気および雑節」
- 各種歳時記における七十二候(涼風至・寒蝉鳴・蒙霧升降)の解説
- 暑中見舞い・残暑見舞いの時期に関する一般的な書式の慣習