夕空の下で穂を垂れ始めた田んぼと、白い綿
暑さの退き方を、空と作物の変化から眺める。
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暑さが消える日ではなく、退きはじめる日です。

処暑しょしょの「処」は、住む場所という意味で使われることが多い字ですが、ここでは「とどまる」「おさまる」のほうの意味。処すという動詞に残っている、動きを止めるほうの用法だと考えると近くなります。

暑さが止まる、と読むと少し強すぎます。止まりかける、勢いを失い始める。そのくらいの温度感で置かれた節気せっきです。

処暑がわかる3つのこと

  1. 時期は八月二十三日ごろ。 立秋りっしゅうの次、白露はくろの前にあたります。
  2. 「暑」の字を持つ最後の節気。 小暑しょうしょ、大暑たいしょ、処暑という三段構えの締めくくりです。
  3. 台風を気にし始める時期。 稲が穂を出す時期と、台風の季節が重なります。

同じ暑の字でも、前の二つは暑さの度合いを言っているのに対し、処暑だけは暑さの終わり方を言っています。三つ並べて見比べると、この節気が季節の階段の踊り場に置かれていることが分かります。

風を気にし始める理由

処暑が台風を意識する節気として語られてきたのには、稲の事情があります。

稲は八月の後半に穂を出して花をつけ、実を太らせる段階に入ります。穂が出たばかりの稲は、強い風雨ふううで倒れると立て直せません。 台風の進路が日本にかかりやすい時期と、収穫を左右する二週間が、そのまま重なっているのです。

昔の暦では、処暑のころと、そのすぐあとの二百十日にひゃくとおか・二百二十日にひゃくはつかを、荒天こうてんを警戒すべき日として並べて扱ってきました。経験の積み重ねから生まれた目安で、九月の初めに向けて備えを固めるという行動は、いまも理にかなっています。

この時期にしておく3つ

  1. 台風の進路情報を、この時期から確認する習慣をつける
  2. ベランダや庭に出したままの物を、片づける日を一度決めておく
  3. 天気で崩れそうな予定には、先に予備日を置いておく

空のほうにも変化が出ます。夏を支えていた太平洋高気圧が力を落とし、南へ下がってきた前線が停滞ていたいして、秋の長雨ながあめの走りが現れるのがこのころ。急に涼しくなるのではなく、雨の降り方が変わることで季節の交代が見えてきます。

屋外の予定には、判断する日も書く

庭の片づけや外出に予備日を置くなら、いつ天気予報を見て決めるかも一緒に書いておきます。同行する人がいれば、変更を伝える方法も先にそろえる。予定の日が近づくまで迷い続けず、判断する時点を決めておくためです。二百十日に向けた備えも、まずは外に置いた物を見渡し、穏やかな日にできる作業を一つ選ぶところから進められます。

体だけが、夏に取り残される

朝晩の風がゆるみ始めても、体のほうはすぐには戻りません。冷房と冷たい飲み物で二か月近く過ごしたあとなので、胃腸も睡眠のリズムも夏仕様のままです。涼しくなったのに疲れが抜けない、という状態は、この時期のよくある感覚でしょう。

秋の予定を増やす前に、夏に崩れたものをひとつ拾い直しておくと、九月の入り方が変わります。

  • 寝る時刻を、七月以前の時間に少しずつ戻す
  • 冷たい飲み物を、常温か温かいものに一杯だけ替える
  • 汗を吸わせ続けた寝具しんぐを、一度だけ入れ替える

全部やらなくて大丈夫です。処暑は、暑さが一度に消える日ではなく、少しずつ退いていく期間の入口。体を戻すほうも、同じ速さで構いません。

残暑見舞ざんしょみまいを出すなら、この時期が最後の頃合ころあいになります。八月いっぱいを目安にする慣習かんしゅうが広く使われているので、迷っているものがあれば、処暑を思い出した日に片づけてしまうのがよさそうです。

綿の萼がほころび、稲の穂が垂れる

七十二候しちじゅうにこうでは、綿柎開わたのはなしべひらく、天地始粛てんちはじめてさむし、禾乃登こくものすなわちみのるの順に進みます。

綿柎開は、綿の実を包んでいた萼がほころんで白い綿毛わたげがのぞくころ。天地始粛は、天と地の気が改まって暑さがようやく鎮まるころ。禾乃登の「禾」は稲や粟をまとめて指す字で、穀物こくもつが実るころを表します。

三つ並べると、この節気が何を見ていたかがはっきりします。空の涼しさより先に、作物の側の変化を数えているのです。農家にとって、一年でいちばん気の抜けない時期がここから始まります。

関西では、地蔵盆がこの時期の行事として残っています。町内の地蔵を飾り、子どもたちが集まる二日間で、夏休みの終わりを告げる区切りとして続いてきました。

夕方の空気だけが、先に軽くなる

夕方に外へ出てみると、この節気の名づけ方が腑に落ちるかもしれません。日中の照り返しはまだ強いのに、日が落ちたあとの空気の重さだけが少し抜けています。

暑さが去ったのではなく、暑さの居座り方がゆるんだ状態。処という一字は、その微妙な段階を言い当てるために選ばれたように思えます。

よくある質問

Q. 残暑見舞いはいつまでに出しますか

八月いっぱいを目安にする慣習が広く使われています。九月に入ってから届く場合は、時候じこうの言葉を秋のものに替えると自然です。

Q. 処暑を過ぎても暑いのはなぜですか

地面や海にたまった熱が抜けるまで時間がかかるためです。暦は暑さの終わりではなく、退きはじめる段階を指しています。

Q. 台風が多いのはこの時期ですか

日本に接近しやすいのは八月から九月にかけてです。処暑のあとに続く二百十日・二百二十日も、荒天の目安とされてきました。

出典

  • 国立天文台 暦計算室こよみけいさんしつ「暦要項れきようこう 二十四節気にじゅうしせっきおよび雑節ざっせつ」
  • 各種歳時記さいじきにおける七十二候(綿柎開・天地始粛・禾乃登)の解説
  • 二百十日・二百二十日を荒天の目安としてきた農事暦のうじれきの記述