田んぼを望む家で、穏やかなうちに植木鉢を収納する人
暦の印を、しまう場所まで確かめるきっかけに。
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台風の進路が出てから、あわててベランダを片づけていませんか。

二百十日にひゃくとおかは、立春りっしゅんを一日目として数えて二百十日目にあたる日です。九月の頭に来るのは、その足し算の結果にすぎません。太陽の位置も黄経こうけいの数字も、この日には出てきません。暦を持たない人でも、指を折れば同じ日にたどり着けるという決め方です。

数えた先にあるのは、稲が穂を出して花をつける時期でした。ここで強い風雨ふううに遭うと、受粉が乱れ、倒れた稲は起き上がりません。一年の労働が数時間で失われる可能性が、いちばん高くなる頃合ころあいです。

二百十日がわかる3つのこと

  1. 九月一日ごろに来ます。 立春から二百十日目、という数え方で決まります。
  2. 警戒のための日として置かれました。 稲の花が咲く時期と、台風の季節が重なります。
  3. 十日後に二百二十日にひゃくはつかが控ひかえています。 警戒を一点ではなく二段構えにしてあります。

風が来る前に、片づけておく

台風の予報が出てから動くと、店も混み、外に出るのも危なくなります。二百十日は、まだ穏やかなうちに手を動かすための日付として使えます。

二百十日までにすませる5つ

  1. ベランダと玄関先に出したままの物をしまう。 鉢、物干し竿、傘立てが飛びます。
  2. 雨あまどいと排水口の落ち葉を取る。 詰まっていると、水が家のほうへ回ります。
  3. 水と電池の残りを数える。 停電と断水の両方を想定しておきます。
  4. 携帯の充電器と、車の燃料を確かめる。 どちらも当日には手に入りません。
  5. 窓の近くに置いた物を、部屋の内側へ寄せる。 割れたときの被害が変わります。

家族と決めておく3つ

  1. 落ち合う場所をひとことだけ決める。 電話がつながらない前提で考えます。
  2. 崩れそうな予定に、予備日を書き込む。 当日に相談すると連絡が重なります。
  3. 家を離れる人の帰り道を確かめる。 交通が止まる時間帯は毎回似ています。

どれも特別な日を待たずにできる作業でしょう。ただ、いつでもできることほど後回しになるので、暦に印が付いている日を利用するのは理にかなっています。

しまう場所まで、一緒に決める

鉢を片づけようと思っても、移す先が埋まっていると作業が止まります。天気の穏やかな日に、玄関先の小物をどこへ入れるか、物干しをどこへ収めるかまで家族で確かめておきましょう。棚を一段空ける、収納袋を同じ場所に置くなど、準備を一つ済ませるだけでも次に動きやすくなります。二百十日の印を、備えの道具と置き場所を確認する予定に使うのも一案です。

なぜ、そこに印をつけたのか

同じ数え方をする暦の日は、ほかにもあります。八十八夜は立春から八十八日目、二百二十日は二百二十日目。いずれも国立天文台の暦要項れきようこうに、雑節ざっせつとして毎年掲載けいさいされています。天文の計算で出す日と、指を折って数える日が、同じ一覧の中に同居しているわけです。

立春という共通の起点きてんさえ知っていれば、あとは数えるだけで警戒すべき日に届く。二百十日の決め方には、その実用の匂いがあります。

十日空けて二百二十日が置かれているのにも理由があります。稲が穂を出す時期は品種や土地によってずれるので、危ない期間を二回に分けたわけです。二百十日を過ぎたから安心、とはしなかったところに、この暦の慎重さが出ています。

三大厄日という言い方

古い農事暦のうじれきでは、八朔はっさく、二百十日、二百二十日の三つを並べて、農家の三大厄日さんだいやくびと呼ぶことがあります。八朔は旧暦きゅうれき八月一日のことで、田の実の節句とも書かれ、収穫前の贈答ぞうとうの習慣が伴っていました。

厄日やくびという言葉はやや強いのですが、迷信として片づけるにはもったいない中身を持っています。実際にこの時期は台風が日本にかかりやすく、暦のうえの警戒日と気象の傾向が、おおむね重なっているからです。恐れるための日ではなく、確かめるための日として置かれたと考えるほうが実像じつぞうに近いでしょう。

俳句では秋の季語きごとして扱われ、夏目漱石そうせきにはそのまま『二百十日』と題した小説もあります。阿蘇あその山を登る二人の会話で進む短い作品で、暦の言葉が題名になるほど身近な感覚だったことがうかがえます。

風を鎮めるための祭り

荒天こうてんを避けたいという願いは、祭りの形でも残りました。よく知られているのが、富山市八尾やつおで九月一日から三日にかけて行われる、おわら風の盆です。胡弓こきゅうの音に合わせて町を流す踊りで、起源は江戸期えどきにさかのぼり、風を鎮めて豊作を願う行事として続いてきました。

同じ趣旨しゅしの風鎮めの神事は各地にあり、名前も風祭かざまつり、風日待などさまざまです。人が風を止められるわけではないと承知したうえで、それでも祈りの形を用意しておく。この構えは、備えることの心理的な側面をよく表しています。

九月一日が重なっていること

二百十日は、九月一日前後になることが多い日です。そして九月一日は、日本では防災の日にあたります。

これは二百十日を由来として定められたものではありません。防災の日の制定にあたっては、関東大震災が起きた日であること、そして台風の多い時期であることの両方が理由に挙げられています。出自しゅつじの違う二つが、結果として同じ日付に並んだかたちです。

よくある質問

Q. 二百十日はいつですか

九月一日ごろです。立春から数えて二百十日目にあたるため、立春の日付が動く年には一日ずれます。

Q. 二百十日には必ず台風が来るのですか

来る年も来ない年もあります。統計として台風が接近しやすい時期にあたる、というだけの日です。備えを見直す目印として使うのが本来の姿です。

Q. 二百二十日との違いは何ですか

十日後に置かれた、同じ趣旨の警戒日です。稲が穂を出す時期が土地によってずれるため、警戒する期間を二段に分けてあります。

出典

  • 国立天文台 暦計算室こよみけいさんしつ「暦要項 二十四節気にじゅうしせっきおよび雑節」
  • 農事暦における八朔・二百十日・二百二十日の記述
  • 越中えっちゅう八尾おわら風の盆の由来に関する地元自治体の解説