盆提灯と収納箱のそばで、ござを丁寧に畳む手元
ゆっくり片づける時間も、次のお盆へつながっていく。
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迎えた分だけ、送るほうが少し寂しい。お盆の最後にそう感じたことはありませんか。

送り火は、お盆に迎えたご先祖を送り出すために焚く火です。 場所も道具も迎え火と同じで、変わるのは向きだけ。家の中へ導いたあかりを、こんどは外へ向けて送り出します。同じ火で始まり、同じ火で終わる数日間になっているわけです。

多くの地域では、お盆の最終日の夕方から夜にかけて焚き、迎える火を日が暮れる前に済ませる家でも、送るほうは遅めにすることがあります。もう少しいてほしいという気持ちが、時間の選び方に出るのだと説明されます。まずは当日の所作しょさから見ていきます。

送り火がわかる3つのこと

  1. 焚く場所と道具は、迎える日と同じです。 焙烙ほうろくという素焼すやきの皿に、麻の茎であるおがらを積んで火をつけます。
  2. 焚く日が一日早い土地があります。 翌日の朝に発つと考える数え方の違いによるものです。
  3. 家の火が、町ぐるみの行事に育った例があります。 京都の五山送り火ござんのおくりびや、川に灯籠を流す行事がそれにあたります。

送り火の焚き方

送るときの4つの所作

  1. 焙烙とおがらを、迎えたときと同じ場所に用意します。 場所を変えると、火の道筋が途切れる感じになります。
  2. 提灯ちょうちんのあかりを外へ向けます。 家の中のあかりから外の火へ、迎えたときと逆の順に運びます。
  3. 手を合わせ、また来年という言葉で締めくくります。 声に出す家も、心の中で言う家もあります。
  4. 火が完全に消えるまで見届け、水をかけて始末します。 灰は冷めてから片づけてください。

なすで作った牛には、ゆっくり帰ってほしいという願いが重ねられています。送る場面では、この遅さがそのまま気持ちの表れになります。急いで片づけないというのが、この日の作法さほうに近いところです。乾いたおがらは勢いよく燃えるので、燃え移るものを近くに置かない点は、迎える日と変わりません。

片づけと、供え物の始末

火を焚いたあとには、精霊棚しょうりょうだなを解いて元へ戻す作業が残ります。ここを雑に済ませると、数日かけた時間が急に終わってしまいます。

供え物や精霊馬しょうりょううまの始末は、地域やお寺で扱いが違います。

  • 白い紙に包み、塩を振ってから家庭ごみとして出す
  • お寺のお焚き上げに持っていく
  • 菩提寺ぼだいじが引き取ってくれるか、あらかじめ聞いておく
  • 土に埋める習ならわしが残る土地なら、それに従う

食べられる供え物は、下げていただいて差し支えありません。住宅地では土に埋めるのが現実的でないため、迷ったらお寺に相談するのがいちばん早い解決になります。真菰まこものござや提灯は、状態がよければ翌年も使えます。

しまう前に、今年の支度を一つ記録する

提灯やござを片づけるときに、部品をそろえて箱へ戻し、置いていた場所が分かる写真も残しておきます。来年買い足したい物があれば、その箱にメモを添える。家族と交わした話のうち覚えておきたいことは、道具の記録とは別に一行書いてもよいでしょう。支度したくの手順と、思い出したことの両方を残すと、送り終えた時間が次のお盆へ続いていきます。

家の火から、町の火へ

この火が地域ぐるみの行事に育った例が各地にあります。よく知られるのは京都の五山送り火です。八月十六日の夜、大文字をはじめとする五つの火が山肌やまはだに順に点され、それぞれ三十分ほど燃え続けます。門口かどぐちで焚く小さな火と、山ひとつを使う火は、規模がまるで違っても役目のほうは変わりません。

水に送る形もあります。灯籠流とうろうながしは、灯籠に火を入れて川や海へ流すもので、いまは環境への配慮から下流で回収する運営が主流になりました。

名前の似ている長崎の精霊流しょうりょうながしは、これとは性格が異なります。その年に亡くなった人の家が船をつくり、鉦(かね)や爆竹ばくちくの音を立てながら町を練り歩く行事で、船は水に浮かべず、終着地で解体されます。静かに流す行事と、賑やかに送る行事が、同じ「流し」の語で呼ばれているわけです。

盆踊りも、送りの行事だった

盆踊りも、もとはこの送りの流れにつながる行事とされます。念仏ねんぶつを唱えながら踊る念仏踊りが下地にあり、盆に帰った亡き人を慰め、また送り出すための踊りだったと説明されます。

いまは夏祭りの一部として楽しむ形が主になりましたが、期間の終わりごろに櫓(やぐら)が組まれる土地では、送り火と同じ夜に音が重なることもあります。近所で太鼓の音がしていたら、それも送りの一部だと思って聞くと、少し違って聞こえます。

焚かない家もある

浄土真宗じょうどしんしゅうでは、送り火を焚かない立場をとります。故人はすでに浄土にあるという教えのため、送り出すという発想を置かないからです。この時期は歓喜会かんぎえとして、お寺の法座ほうざに参り、感謝を確かめる時間にあてられます。

火を焚かないことが供養の欠けではない、という点は覚えておくと、親族しんぞくのあいだの話も進みやすくなります。宗派しゅうはによって形が違うのは、この行事にかぎった話ではありません。家に伝わってきたやり方があれば、それがその家の正解になります。

送ったあとに残るもの

送り火が寂しいのは、これで日常に戻ると決まるからです。それでもこの火は、残された側のための区切りでもあります。誰かを送る場面を毎年繰り返すことで、いなくなった事実と付き合う練習をしている、という受け取り方もできます。

お盆のあいだに思い出したことのうち、一つだけ持ち帰ってみてください。口癖でも、味付けでも、笑い方でもかまいません。迎える側の支度と、精霊棚のととのえ方についてはお盆(迎え火)で扱っています。

よくある質問

Q. 送り火は何日に焚くのが正しいですか

お盆の最終日にあたる十六日が広く知られていますが、十五日に焚く土地もあります。翌朝に発つと考えるか、その夜に発つと考えるかの違いによるものです。

Q. マンションで火を焚けない場合はどうしますか

電池式の盆提灯を玄関に置いて、時間を決めて消す形をとる家があります。あかりを外へ向けてから消す、という順序を残しておけば、送る所作としては成り立ちます。

Q. 供えた果物や菓子は捨てるものですか

食べられるものは下げていただいて差し支えありません。傷んだものだけを、白い紙に包んで塩を振ってから処分する形が広く案内されています。

出典

  • 京都市による大文字五山送り火の記録
  • 長崎市の観光案内による精霊流しの説明
  • 仏具ぶつぐ店や寺院じいんによる送り火と精霊棚の片づけについての解説