
夏の夕方、玄関先で小さな火を焚いている家を見かけたことはありませんか。
迎え火は、お盆の初日に門口や玄関先で焚く火です。 煙とあかりを目印にして、帰ってくるご先祖を出迎える、という考え方で続いてきました。多くの地域では日暮れどきに焚きます。暗くなってからのほうがあかりが遠くまで見えるから、という単純な理由です。
お盆の正式な呼び名は盂蘭盆会(うらぼんえ)といいます。「お盆」はこれを縮めた言い方です。焚くもの、飾るもの、供えるものにはそれぞれ決まった形があるので、順に見ていきます。
迎え火がわかる3つのこと
- 焚くのは日暮れどき、家の入口です。 門口、玄関先、集合住宅ならベランダなど、外から見える場所が選ばれます。
- 燃やすのは「おがら」という麻の茎です。 皮をはいだ白い茎で、盆の時期になるとスーパーや花屋に並びます。
- 火を焚かない家もあります。 住まいの事情によるものだけでなく、宗派の教えとして焚かない立場もあります。
迎え火の焚き方
使うのは、麻の茎の皮をはいだおがらです。焙烙(ほうろく)という素焼きの平皿に短く折って積み、火をつけます。麻は清らかな植物とされ、その煙が道しるべになる、という説明が添えられます。
迎え火を焚く4つの手順
- 焙烙を平らな場所に据えます。 風向きと、まわりに燃えやすいものがないかを先に確かめます。
- おがらを重ねすぎず、隙間をあけて積みます。 空気が通ったほうがよく燃え、煙も上がります。
- 火が落ち着いたら手を合わせます。 迎える言葉を声に出してから合わせる人もいます。
- その火を盆提灯へ移し、仏壇の前まで運びます。 外の火の役目を、家の中のあかりが引き継ぎます。
おがらはよく燃えるので、玄関マットや植木鉢の近くは避け、水を用意しておくと安心です。地域によっては屋外で火を燃やすことが条例で制限されているため、心配なら管理者に確かめてから支度してください。
火が使えない住まいでは
集合住宅などで火を焚けない場合は、電池式の盆提灯や玄関灯を代わりにする家が増えました。玄関を明るくして手を合わせれば、迎える形としては足ります。
火を使わない代わりに、玄関の掃除をていねいにする、あかりを一つ増やす、といった置き換えをしている家もあります。目印を用意して待つ、という中身が変わらなければ、道具は住まいに合わせて選んで差し支えありません。
迎える側の支度。精霊棚と盆提灯
火を焚く前に整えるのが精霊棚(しょうりょうだな)です。盆棚とも呼ばれ、真菰(まこも)のござを敷き、位牌を移し、季節の野菜や果物、水の子、閼伽水(あかみず)を並べます。ほおずきを吊るす地域も多く、提灯に見立てた飾りとして扱われます。
「水の子」は、きゅうりやなすを細かく刻み、洗った米と混ぜて水を張った供え物です。「閼伽水」は、きれいな水に季節の花を浮かべたもの。名前だけ聞くと難しく感じますが、どちらも家にある材料で作れます。仏具店で並びの図が配られていることも多いので、一枚もらっておくと毎年迷いません。
きゅうりの馬と、なすの牛
きゅうりとなすに割り箸を刺して作る精霊馬(しょうりょううま)も、この日に据えます。足の速い馬に見立てたきゅうりには早く帰ってきてほしいという願い、歩みの遅い牛に見立てたなすには長くいてほしいという願いが託されています。夏に手に入りやすい野菜だった、という現実的な事情もあったようです。
飾る向きには地域差があります。家のほうへ向けるところ、外へ向けるところ、迎えと送りで置き換えるところ。家に伝わる置き方があれば、それに従うのが穏やかです。
家に伝わる置き方を、来年へ残す
精霊棚や提灯の支度に迷ったら、家族に「去年はどこに置いていたか」「誰が用意していたか」を聞いてみます。並べ終わったところを写真に残し、買い足した物を一緒に控えておくと、翌年の支度に使えます。地域ごとの飾り方をすべてそろえるより、この家で受け継いできた形を一つ確かめるほうが、迎える相手の話にもつながりやすいでしょう。
初盆(新盆)の年は支度が変わる
その年に亡くなった人を初めて迎える年は、初盆または新盆と呼ばれ、支度が少し変わります。柄の入った提灯ではなく白い提灯を吊るす地域が多く、これは一度きり用いるものとして扱われます。
親族や近所の人が集まる年になりやすいので、迎え火の時刻を先に伝えておくと当日が慌ただしくなりません。墓で火を受け、そのあかりを提灯に入れて家まで持ち帰る形をとる地域もあります。迎え提灯と呼ばれる作法で、家の門口で焚くのとは順番が逆になります。どちらが正しいという話ではなく、その土地でどう受け継がれてきたかの違いです。
七月と八月に分かれる理由
迎え火の日が七月と八月に分かれるのは、明治の改暦の影響です。旧暦から新暦へ切り替えたとき、新暦の七月が農作業のいちばん忙しい時期に当たってしまいました。そのため農村ではひと月遅らせた八月に落ち着き、東京などの都市部では暦のとおり七月に行う形が残りました。どちらが本式ということはありません。
宗派によっても考え方が違います。浄土真宗では、迎え火も送り火も焚かず、精霊棚や精霊馬を用いないお寺が一般的で、亡くなった方はすぐに浄土へ生まれるという教えに立つため、霊が帰ってくるという前提を置かないからです。この時期は歓喜会(かんぎえ)と呼ばれ、法話を聞く時間として案内されます。
お盆はどこから来たのか
盂蘭盆経という経典に、お釈迦さまの弟子である目連(もくれん)の話が伝えられています。亡くなった母が餓鬼道という苦しい世界に落ちているのを知り、救うために僧たちへ供養を施した、という筋です。これがお盆の由来として語られてきました。
日にちが夏の修行期間の終わりに置かれているのも、この話に沿ったものです。日本では、もとからあった祖先を迎える習わしと重なりながら、いまの形になっていきました。
支度を進めるうちに、迎える相手が漠然としてくることがあります。今年はこの人、と一人決めておくと、手を合わせる時間の中身が変わります。送り出す側の日についてはお盆(送り火)で扱っています。
よくある質問
Q. 迎え火は何時ごろ焚くものですか
日暮れどきに焚く家が多いところです。あかりが遠くまで見えるようにという考え方からで、夕方の早い時間に済ませるところも少なくありません。地域の慣例に合わせて差し支えありません。
Q. おがらはどこで買えますか
盆の時期になると、スーパーの仏事コーナーや花屋、ホームセンターに焙烙とセットで並び、売り場に出るのは盆の直前なので、早めに探しても見つからないことがあります。
Q. きゅうりの馬となすの牛は、どちらを向けて置きますか
地域によって違います。迎えるときは家の中へ向け、送るときに外へ向け直す形が広く知られていますが、最初から外向きに置く土地もあります。
出典
- 盂蘭盆経に伝わる目連の説話
- 仏具店や各宗派による精霊棚、精霊馬、迎え火の解説
- 明治六年の改暦と、七月盆と八月盆の分かれ方についての説明