彼岸花の咲く小道と西の夕空、縁側のおはぎ
秋の景色とお供えから、彼岸の七日間を迎える。
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夕方、西の空をじっと眺めたことはありますか。

秋のお彼岸ひがんは、秋分の日を真ん中に置いた七日間です。秋分が九月二十三日ごろなので、その三日前、九月二十日ごろが彼岸入ひがんいりにあたります。組み立ては春と同じですが、季節が逆なので、この期間に見えてくるものはかなり違います。

夏を越した墓は草が伸びていて、手入ていれに時間がかかります。 そして、日が落ちるのがまだ早すぎないので、西の空を眺める余裕があるのもこちらの彼岸です。まずは当日の支度したくから見ていきます。

秋のお彼岸入りがわかる3つのこと

  1. 墓の手入れに、春より時間がかかります。 草が伸び、線香立てに水が溜まっていることが多いためです。
  2. 供える菓子はおはぎと呼ばれます。 同じ菓子が春はぼたもち。萩の花に見立みたてた名前で、小ぶりに丸めて粒つぶあんで包みます。
  3. 夕日を見る過ごし方があります。 真西まにしへ沈む太陽を拝む日想観(にっそうかん)という古い修行しゅぎょうが、この期間と結びついています。

夏を越した墓の手入れ

八月のお盆から一か月ほど。雨と暑さが続いたあとの墓地は、春とは様子が違います。草が伸び、落ち葉が溜まり、水鉢みずばちに溜まった水がにごっていることもあります。入りの日に道具をそろえておくと、当日の作業がずいぶん楽になります。

秋の彼岸入りに用意する5つのもの

  1. 軍手と草取りの道具。 素手で抜くと、伸びた草の根で手を切ることがあります。
  2. たわしとスポンジ。 石の表面についた汚れは、乾く前に落とすほうが早く済みます。
  3. ごみ袋を多めに。 抜いた草と落ち葉で、思ったより量が出ます。
  4. 日持ひもちを考えた花。 暑さの残る時期なので、菊のように持ちのよいものが向きます。
  5. 水と帽子。 作業そのものが夏の延長になるので、自分の分の備えも要ります。

暑さの残る年は、墓地での作業が体にこたえます。無理をして倒れるより、日を選び直すほうが理にかなっています。七日のあいだのどこかで行けばよい期間なので、天気と体調を見て決められるのがこの行事のありがたいところです。午前の早い時間に動くのが無難でしょう。

おはぎと、季節ごとに変わる四つの名前

秋に供える菓子はおはぎです。萩(はぎ)の花に見立てて小ぶりに丸め、粒あんで包む形が知られています。新しい小豆が採れる時期にあたるため、その年の豆で作れるという実務の面もあります。

同じ菓子には、季節ごとの別名べつめいも伝わっています。夏を夜船(よふね)、冬を北窓(きたまど)と呼ぶ言い方です。米を搗(つ)かずに作るため「搗き知らず」から「着き知らず」「月知らず」へと言葉遊びが重ねられた、と説明されます。四つの名を並べてみると、菓子そのものより、季節に名を付け替えて楽しんできた感覚のほうが伝わってきます。

真西に落ちる日を見る

ここからは、この時期に置かれた理由を見ていきます。

彼岸の頃、太陽はほぼ真東まひがしから昇り、ほぼ真西へ沈み、西のほうに浄土があるという考え方と組み合わせると、日の落ちる方向をそのまま拝む形になります。

この考え方を修行として形にしたものが日想観です。観無量寿経かんむりょうじゅきょうという経典きょうてんに説かれる観法(かんぽう)のひとつで、沈む日を見つめながら西方の浄土を思い描きます。大阪の四天王寺してんのうじでは、西門の石鳥居いしどりいの向こうへ落ちる夕日を拝む日想観の法要が、彼岸の中日ちゅうにちに営まれてきました。この鳥居の先が浄土の東の門に接している、という信仰は十一世紀までには成り立っていたとされます。

手を合わせる場所がなくても、日の落ちる方向を確かめるだけで、この行事の骨格には触れられます。仏壇ぶつだんの花を替え、写真の前に新しい果物を置き、手を合わせたあとに西を向いて数分立ってみる。それだけで、この時期らしい時間になります。

彼岸花が墓地の縁に並ぶ理由

期間の目印のように、畦(あぜ)や墓地の縁に咲くのが彼岸花ひがんばなです。名前のとおり、ちょうどこの頃に咲きます。

球根に毒があるため、田を荒らす獣やねずみを寄せないよう、人が植えたという説明がよくされます。墓地の縁に多いのも同じ理由と考えられています。花の名前が行事の名前から来ているのか、行事のほうが花に合わせたのかは分かりませんが、暦の目安として使われてきたことは確かです。

秋分の日が祝日であること

秋分の日が国民の祝日であることも、この期間の性格に影響しています。帰省や墓参はかまいりの予定を組みやすく、法要に人が集まりやすい。行事が今日まで続いてきた理由には、こうした暦の都合も含まれています。

秋の彼岸は、収穫への感謝と亡き人への感謝が重なりやすい時期でもあります。ただ「ご先祖に感謝」とまとめてしまうと、手を合わせる時間が短くなりがちです。今年の実りを一つ思い浮かべ、その背景にいた人を数えていくほうが、時間の使い方としては素直でしょう。仕事の成果でも、家族の健康でもかまいません。

彼岸会は日本で形になった行事

彼岸を「アジア各地に共通する先祖供養せんぞくよう」と一括ひとくくりに説明されることがありますが、彼岸会(ひがんえ)は日本で形になった行事で、仏教が伝わったどの国にもあるものではありません。

位置づけが宗派しゅうはによって違う点も同じです。浄土真宗じょうどしんしゅうでは、この期間を追善ついぜんのためではなく、教えを聞く機会として案内するお寺が目立ちます。手を合わせる形は家によって違ってよく、家に伝わってきたやり方に沿えば十分です。七日間の閉じ方と冬に向けた手当てあてについてはお彼岸明け(秋)で扱っています。

暮らしの中で試すなら

墓参りの支度は、家にある道具を一度並べてから始めます。掃除用の袋と供え物の袋を分けておくと、着いてから取り出す順番が分かります。同行する家族がいるなら、先に草を取る人、花を用意する人と分担を決め、帰る前の片づけまで見込んでおきます。

よくある質問

Q. 秋のお彼岸はいつからですか

秋分の日を真ん中にした七日間なので、秋分の三日前が入りの日です。秋分の日は年によって前後するため、期間もその年の暦で確かめる必要があります。

Q. おはぎとぼたもちは何が違いますか

季節による呼び分けです。秋は萩に見立てておはぎ、春は牡丹ぼたんに見立ててぼたもち。粒あんとこしあん、大きさの違いも語られますが、店や地域によってまちまちです。

Q. 暑さが残る年でも、墓参りは期間内に行くべきですか

体調を優先してかまいません。七日のうち都合のよい日を選べる行事なので、涼しい朝に寄せる、日を改める、といった調整ができます。

出典

  • 観無量寿経に説かれる日想観と、四天王寺の日想観法要にっそうかんほうようの記録
  • 各宗派が示す彼岸会の意味づけ
  • 国立天文台 暦計算室こよみけいさんしつによる秋分日の算出に関する説明