春の花が咲く墓地の小道を、花束と掃除道具の入った桶を持って歩く二人
花と掃除道具をそろえるところから、春のお彼岸が始まります。
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お彼岸ひがんは、春分の日の一日だけだと思っていませんか。

春のお彼岸は、春分の日を真ん中にして、その前後三日ずつを加えた七日間です。 その一日目が彼岸入り(ひがんいり)。暦のうえでは期間として区切られていて、入りの日はその段取だんどりを始める合図にあたります。

彼岸(ひがん)という言葉は、向こう岸という意味です。悟さとりの世界を彼岸、迷いを抱えたこちら側を此岸(しがん)と呼び分けます。難しく聞こえますが、この期間にすることは決まっていて、墓参はかまいり、仏壇ぶつだんの手入ていれ、ぼたもちを供えること。まずはその段取りから見ていきます。

春のお彼岸入りがわかる3つのこと

  1. 七日間のうち、都合のよい日に行けば足ります。 中日ちゅうにちに集中しがちですが、期間のどこかに行けばよい行事です。
  2. 供える菓子は、春はぼたもちと呼びます。 秋の彼岸では同じ菓子がおはぎに変わります。
  3. 日付は年によって前後します。 中日になる春分の日が太陽の位置で決まるためで、毎年同じ日には来ません。

入りの日に決めておくこと

いちばん役に立つのは、期間の初日に予定を決めてしまうことです。中日の前後は霊園れいえんの駐車場が埋まり、水汲みずくみ場にも列ができます。

彼岸入りの日に決める4つのこと

  1. 墓参りに行く日を、七日のうちで先に決めます。 天気予報を見て、雨の少ない日に寄せておきます。
  2. 花と線香、掃除道具の在庫を確かめます。 当日に買い足しへ走ると、それだけで半日が消えます。
  3. 遠方えんぽうの墓なら、親族しんぞくと日を合わせる連絡を入れます。 早めに声をかけるほど調整が楽になります。
  4. ぼたもちを買う店か、作る日を決めます。 人気の和菓子店は中日に売り切れることがあります。

法要に出るかどうかも、この日のうちに決めておくと動きやすいでしょう。お寺では彼岸会(ひがんえ)という法要が営まれ、中日を挟んだ数日のあいだに日程が組まれます。何家族か合同で行う形が多いので、あらかじめ申し込みが要るところもあります。

出かける前の荷物をひとまとめに

墓参りの支度したくは、使う順に並べると確かめやすくなります。まず掃除道具、そのあとに花と線香、最後に持ち帰るものを入れる袋。水桶など現地で借りられるものがあれば、家から持つ荷物と分けてメモします。同行する人には、集合時刻だけでなく、誰が花を用意するかも一緒に伝えておきましょう。入りの日に一度並べてみると、当日の朝は花を受け取り、荷物を持って出るだけに近づきます。

ぼたもちとおはぎ、名前が変わる理由

春の彼岸に供える菓子は、ぼたもちと呼ばれます。牡丹(ぼたん)の花に見立みたてた名で、大きめに丸めてこしあんで包む形が一般的とされます。秋には呼び名がおはぎに変わり、こちらは萩(はぎ)に合わせて小ぶりに、粒つぶあんで作られます。

つまり、同じ材料の菓子に季節の花の名を付け替えてきたわけです。あんの種類や大きさの違いも、地域や店によってまちまちで、厳密な区別があるわけではありません。春に「おはぎ」と書いて売られていても、間違いというほどのことではないのです。

彼岸という言葉が指す「向こう岸」

ここからは、彼岸という行事の成り立ちをたどります。

彼岸のもとになっているのは、古いインドの言葉であるサンスクリット語の「パーラミター」です。漢字では波羅蜜多(はらみた)と写されます。迷いのこちら側から、悟りの向こう岸へ渡ること。これを到彼岸(とうひがん)といい、この音がそのまま行事の呼び名の背景にあります。

記録のうえでは、『日本後紀にほんこうき』に伝わる八〇六年、大同元年だいどうがんねんの記事が古いものとして挙げられます。崇道天皇すどうてんのうと追号ついごうされた早良さわら親王しんのうのために、春分と秋分を中心とする七日間、諸国の寺で経を読ませたという内容です。彼岸会は日本で形をとった行事で、インドや中国の仏教に同じ行事があるわけではありません。

なぜ春分と秋分に置かれたのか

太陽の動きで説明されます。この時期、太陽はほぼ真東まひがしから昇り、ほぼ真西まにしへ沈みます。西のほうに浄土があるという考え方と、日が真西へ落ちる時期が重なるため、方角を合わせて手を合わせるのにふさわしい頃とされてきました。

彼岸は、節分や土用と同じく雑節(ざっせつ)に数えられます。雑節とは、二十四節気にじゅうしせっきとは別に暮らしの目安として置かれた日のことです。中日になる春分の日は太陽の位置で決まるため、日付は年によって動き、翌年の春分日は、国立天文台がまとめる暦要項れきようこうによって前年の二月に公表され、それを受けて祝日も定まります。

七日間を、六つの行いに割り当てる

七日という長さにも意味が置かれています。中日は先祖に手を合わせる日とし、残る六日を、向こう岸へ渡るための六つの行いにあてる考え方です。これを六波羅蜜(ろくはらみつ)といいます。

六つとは、布施(ほどこすこと)、持戒じかい(決まりを守ること)、忍辱にんにく(にんにく/耐えること)、精進しょうじん(努め続けること)、禅定ぜんじょう(ぜんじょう/心を静めること)、智慧ちえ(ちえ/ものごとを正しく見ること)。一日ずつ心がけていく、という組み立てになっています。全部を意識して過ごせる人は多くありませんが、期間の骨格として知っておくと、七日という長さの理由が分かります。

宗派で受け取り方に幅がある

先祖供養せんぞくようの期間として説明されるのが一般的ですが、宗派しゅうはによって力点りきてんが違います。浄土真宗じょうどしんしゅうでは、亡くなった人はすぐに浄土へ生まれるという教えに立つため、彼岸を追善ついぜんのためではなく、仏法ぶっぽうを聞く期間として案内するお寺が多くあります。彼岸会の法話ほうわに足を運ぶことが中心になる、という形です。

どちらが正しいという話ではないので、家の宗派の案内に沿って考えるのが穏やかです。春の彼岸は農作業の始まりとも重なっていて、種まきの目安にしてきた地域が多くあります。彼岸桜ひがんざくらという名の早咲はやざきの桜も、ちょうどこの時期に咲きます。七日間の閉じ方についてはお彼岸明け(春)で扱います。

よくある質問

Q. 春のお彼岸はいつからいつまでですか

春分の日を真ん中にした七日間です。春分の三日前が入りの日、三日後が明けの日にあたり、春分の日が動くため、期間も年によって前後します。

Q. 墓参りは中日に行かないといけませんか

七日のうちであれば、どの日でもかまいません。むしろ中日を外したほうが霊園は空いていて、掃除の時間もゆっくり取れます。

Q. ぼたもちは自分で作らないといけませんか

買ってきたもので差し支えありません。もち米とあんこがあれば作れますが、この時期は和菓子店やスーパーにも並びます。

出典

  • 日本後紀にみえる大同元年の彼岸会の記事
  • 各宗派による六波羅蜜と彼岸会の解説
  • 国立天文台 暦計算室こよみけいさんしつによる春分日の算出に関する説明