
新米を買ってきたら、まず自分の茶碗によそっていませんか。
神嘗祭(かんなめさい)は、その年に採れた米をいちばん先に神へ差し出す祭りです。伊勢神宮の恒例祭典のなかで最も重いものとされ、十月十五日から十七日にかけて営まれます。
供えられるのは、その年に収穫された新穀です。由貴(ゆき)の大御饌(おおみけ)として奉られます。大御饌は神に差し上げる食事のこと、由貴は清らかで穢れのないという意味です。自分たちが食べる前に、いちばん新しい米を差し出す。 それだけの行いに、神宮は年のうちで最大の手間をかけています。
神嘗祭がわかる3つのこと
- 参拝そのものは、いつもどおりできます。 祭典の場は見られませんが、期間中に内宮や外宮へ参ることは差し支えありません。
- 町の側にも行事があります。 伊勢の市民が新穀を積んだ車を曳く初穂曳(はつほびき)は、外から見られる場面です。
- 神宮のすべての宮社で行われます。 内宮、外宮、別宮から所管社まで、順に祭典が営まれていきます。
期間中の伊勢で、何が見られるか
祭典の中心は非公開です。参拝する人は、いつもと同じように玉垣の外から拝します。それでも、この三日間の境内には普段と違う張りつめた空気があり、そのために時期を選んで参る人もいます。
外から見られるのが初穂曳です。新穀を積んだ車を、市民が綱を曳いて神宮へ運びます。陸を進む陸曳(おかびき)と、宮川を渡る川曳(かわびき)の二つの形があり、掛け声とともに町なかを進みます。祭りの核心が閉じられている一方で、町の人が加われる場もこうして用意されているわけです。
宮中でも同じ日に神嘗祭の儀が行われ、天皇が賢所(かしこどころ)で拝礼されます。賢所は皇居のなかで天照大御神を祀る場所です。明治期には祭日として休日にもなっていました。現在は祝日から外れていますが、神社の側では全国で奉祝の祭典が営まれています。
夜と未明と正午、三度に分けて
祭りの中心は三つの儀式に分かれています。内宮では、十六日の夜十時に由貴夕大御饌(ゆきのゆうのおおみけ)、十七日の午前二時に由貴朝大御饌(ゆきのあしたのおおみけ)、そして十七日の正午に奉幣(ほうへい)です。
夜と未明に食事を差し上げ、日が高くなってから幣を奉る。人が寝ている時間帯に神事の山場が置かれているのが、この祭りの独特なところです。 参拝者に見せるためではなく、神へ差し出すことだけを目的に組まれた時間割だと分かります。
奉幣とは、幣帛(へいはく)を奉ることをいいます。幣帛は布や絹などの捧げ物のことで、この日は天皇からのものが届けられます。運ぶのは勅使(ちょくし)、つまり天皇の使いです。国の祭りとして続いてきた性格が、この場面にはっきり出ています。
九月に、一本ずつ抜かれる稲
供えられる米は、市場から買ってくるものではありません。神宮には御料田(ごりょうでん)という専用の田があり、そこで育てた稲が使われます。
九月の上旬に抜穂祭(ぬいぼさい)が行われ、御稲穂を手で一本ずつ抜き取ります。鎌で刈るのではなく、抜く。古い形をそのまま残した作法です。ここで収められた新穀が、神嘗祭で供える御飯と御酒になります。
最初の一膳を先に回す4つの手順
神棚のない家でも、この祭りの考え方は使えます。順番を入れ替えるだけの話なので、量の多い少ないは関係ありません。
- 新米が届いたら、炊く前に袋の産地を読みます。 誰かの田で採れたものだと分かってから炊きます。
- 炊きあがったら、最初の一口を小さな器に取り分けます。 神棚があれば供え、なければ窓辺や棚の上に置きます。
- 送り主に、届いたことを当日のうちに伝えます。 後回しにするほど言いにくくなります。
- 仕事の実りにも同じ順番を当てます。 成果が出たら、自分の楽しみに回す前に、支えてくれた相手へどう返すかを先に決めます。
神宮の正月と呼ばれてきた理由
ここからは、この祭りの位置づけです。神嘗祭には、神嘗正月、あるいは神宮の正月という別名があります。暦の正月とは別に、神宮にとっての年の始まりがここにある、という感覚です。
米を軸に一年を数えれば、収穫を納めた時点が区切りになります。稲を育て、実らせ、捧げるまでが一巡。その捧げる場面が年の頂点であり、同時に次の年の起点でもある。 神宮の祭祀を通して見ると、暦のうえの一月一日より、こちらのほうが実感に近い区切りだったのだろうと想像できます。
六月と十二月の月次祭(つきなみさい)と合わせて、三節祭(さんせつさい)と呼ばれます。この三つが神宮の祭祀の骨格を成していて、なかでも神嘗祭が頂点に置かれています。
三日前に営まれる衣の祭りは神御衣祭(秋)、翌月に新穀を神と共にいただく祭りは新嘗祭で扱っています。
暮らしの中で試すなら
新米の袋を開けるとき、産地と品種を読んで、その日の食卓の話題にしてみましょう。贈ってもらった米なら、「今日炊いて、こんなおかずといただいた」と一言知らせると、お礼が具体的になります。食べ終えてから、仕事や家事でも助けてもらったことを一つ思い出します。収穫への感謝を、身近な相手へ返す言葉にもつなげられます。
よくある質問
Q. 神嘗祭の期間に伊勢へ参るなら、いつがいいですか
十五日から十七日はどの日でも参拝できます。奉幣が営まれる十七日の正午前後は、境内の人の動きがいちばん多くなります。静かに参りたいなら、朝のうちに内宮へ入り、外宮へ回る順にすると落ち着いて歩けます。
Q. 初穂曳は誰でも見られますか
沿道からの見物はできます。綱を曳く側に加わるには、地元の団体を通した申し込みが要ることが多く、年によって扱いが変わります。日程も陸曳と川曳で分かれているため、参加を考えるなら早めに問い合わせるのが確実です。
Q. 神嘗祭と新嘗祭は何が違いますか
神嘗祭は伊勢神宮で、その年の初穂を天照大御神へ捧げる祭りです。十一月の新嘗祭は宮中が中心で、天皇が神々に供えたうえで自らも同じものを口にされます。差し出すところで完結するか、共に食べるところまで進むか。そこが分かれ目です。
出典
- 伊勢神宮による神嘗祭および抜穂祭の案内
- 三節祭と神嘗正月に関する神宮の解説
- 宮中における神嘗祭の儀についての一般的な記述