
神さまへの供え物には、お米やお酒だけでなく、衣もあります。
五月十四日に伊勢神宮で営まれる神御衣祭は、着るものを奉る祭りです。読みは、かんみそさい。「御衣」と書いて「みそ」と読ませる古い言い方が、名前に残っています。
奉られるのは、和妙(にぎたえ)と呼ばれる絹と、荒妙(あらたえ)と呼ばれる麻。どちらも反物、つまり仕立てる前の布のままの形で、天照大御神(あまてらすおおみかみ)の御前に供えられます。 食べ物ではなく衣を差し出す祭りが、年に二度、暦のうちに組み込まれています。
神御衣祭がわかる3つのこと
- 奉るのは、絹と麻の反物です。 仕立てた衣ではなく、織り上がった布のまま供えます。どう仕立てるかは神の側にゆだねる、という受け取り方ができます。
- 外宮では営まれません。 内宮の正宮と、その別宮である荒祭宮(あらまつりのみや)の二か所だけで行われます。
- 五月と十月の二度あります。 春が五月十四日、秋が十月十四日。日付の十四日は共通しています。
当日、参拝や見学はできるのか
神宮の恒例祭典は、おおむね非公開です。神御衣祭も同じで、祭場の中は見られません。参拝する人は、玉垣(たまがき)という御殿を囲う垣の外から拝する形になります。
とはいえ、この日に参ってはいけないという意味ではありません。祭典の日と知って参れば、いつもの参拝とは違う静けさに気づけるはずです。 五月半ばの内宮は木立の緑が濃くなる時期で、五十鈴川の水も温みます。祭典の時刻は午前に組まれることが多いので、社務所で当日の予定を確かめてから境内に入ると動きやすくなります。
和妙と荒妙、二つの布
和妙のニギは柔らかい、荒妙のアラは粗いという意味です。絹はなめらかで、麻はしっかりと張りがある。手ざわりの違う二種の布を、対にして奉ります。
古代、税として納められた布も、この二つで数えられていました。柔らかいものと粗いもの、両方そろえて初めて衣の材料が足りる。片方だけでは装いが成り立たないという考え方が、対で供える形に残っています。
内宮と荒祭宮だけで行われる理由
伊勢神宮というと内宮と外宮の両方を指しますが、神御衣祭は豊受大神宮、つまり外宮では行われません。
奉られるのは皇大神宮の大御前と、荒祭宮の二か所です。荒祭宮は内宮の第一の別宮で、天照大御神の荒御魂(あらみたま)を祀っています。荒御魂とは、活発にはたらく面を指す言い方です。つまりこの祭りは、天照大御神だけを対象にしています。
神宮の祭典は多くが内宮と外宮の両方で執り行われるため、片方だけという形は目を引き、衣を奉るという行いが、この神に固有のものとして受け継がれてきたことが、祭りの並びから読み取れます。
五月の衣替えでやる4つのこと
人に対して、季節が変わったから服を替える。神に対して同じことをするのが、この祭りの考え方です。日を合わせて、家の衣類にも手を入れてみてください。
- この季節に着るものを、引き出しの前に出します。 奥に眠ったままの段を、一度空にします。
- 一年着なかったものは、手放すか繕うかを決めます。 迷うものは次の季節までしまい、それでも手が伸びなければ手放します。
- 下着や靴下から替えます。 人目に触れない層のほうが、体の楽さに効きます。
- 寝具を季節のものに入れ替えます。 眠っている時間は一日の三分の一です。
袷(あわせ)から単衣(ひとえ)へ替えるという習わしは、宮中の更衣(こうい)にさかのぼります。暦のうえの区切りとして扱われてきたもので、神御衣祭が五月に置かれているのも、その感覚と重なります。
一度絶えて、元禄によみがえった
この祭祀は長い中断を経験しています。中世の混乱のなかで途絶え、元禄十二年、西暦一六九九年に再興されました。さらに明治三十三年には、延喜式(えんぎしき)という平安時代の法令集に定められた古い制度に沿う形へ戻され、それが現在まで続いています。
千年以上続いてきたと語られがちな神宮の祭典ですが、実際には失われた期間があり、記録をたどって組み直された部分を含みます。守るだけでなく、いったん途切れたものを調べ直して立て直す作業も、伝統の中に含まれているわけです。
身にまとうものを選び直す
服を新しく買い足す日にしなくても、この祭りの意味は受け取れます。持っているものを見直して、いま自分に合っているかを確かめるだけで十分です。
体型も仕事も変わるので、去年ちょうどよかった服が今年は落ち着かないことがあります。着ていて背筋が伸びるものと、着ると自分が小さく見えるもの。手に取って分けてみると、案外はっきりします。
秋にもう一度、同じ名の祭りが営まれます。そちらは布を織る側に踏み込むと見え方が変わるので、神御衣祭(秋)であらためて扱います。
暮らしの中で試すなら
衣替えでは、畳んだまま仕分ける前に、よく着る一枚へ袖を通してみましょう。腕を上げる、椅子に座る、上着を重ねるといった普段の動きで、今も楽に着られるかを確かめます。気になるところがあれば、繕う、着る場面を変えるなどの選択をします。見た目だけでなく、肌に触れる感じも残す理由にしてみてください。
よくある質問
Q. 神御衣祭の日に内宮へ参るなら、何時ごろがいいですか
祭典の時刻を避けたいなら午後が動きやすく、当日の空気に触れたいなら午前です。神宮の祭典日程は季節ごとに案内されているので、参る前に確かめられます。人出は式年遷宮の年をのぞけば落ち着いており、行列に並ぶような日にはなりません。
Q. 奉られた反物は、そのあとどうなりますか
神へ供えたものは、祭典が終わったあとに定められた作法で納められます。参拝者に配られるものではないため、手に取る機会はありません。この祭りで受け取れるのは品物ではなく、季節ごとに装いを改めるという考え方のほうです。
Q. 春と秋で、供えるものは変わりますか
奉られるのは、どちらも和妙と荒妙です。違うのは暦のうえの位置で、春は五月十四日、秋は十月十四日に営まれます。秋のほうは神嘗祭という大祭の直前にあたるため、そちらは前後の祭りとのつながりが見どころになります。
出典
- 伊勢神宮による神御衣祭の案内
- 日本大百科全書における神御衣祭の記述
- 延喜式および宮中の更衣に関する一般的な解説