
正月に供えた鏡餅を、いつ下げてどうやって食べるか。毎年ここで手が止まっていませんか。
鏡開きは、飾っていた鏡餅を下げて、家族でいただく日です。関東を中心とした地域では一月十一日に行われます。鏡餅は飾りではなく、正月に家へ迎えた年神(としがみ)が宿る場所とされてきました。 その餅を分けて食べることで、家族の一年の無事を願う。それがこの日のすべてです。
丸い形と「鏡」という呼び名は、古代の銅鏡に由来するという説明が知られています。鏡は神事の道具であり、神の姿を映す品でもありました。餅の形をそこへ寄せた、という筋道です。まずは当日の手順から見ていきます。
鏡開きがわかる3つのこと
- 供えた餅を下げて食べる、それだけの日です。 特別な祝詞も飾りも要りません。
- 包丁を使わないという決まりが伝わっています。 手か木槌で欠くのが作法とされ、「割る」ではなく「開く」と言います。
- 日付は地域で分かれます。 一月十一日のほか、十五日、二十日、四日に行う土地があります。
包丁を使わず、「割る」とも言わない
鏡開きには、刃物を使わないという決まりが伝わっています。理由として挙げられるのは、刃物で切る所作が切腹を思わせるためというもの。武家の行事として育った経緯を考えれば、避けたくなるのも分かります。神の宿ったものに刃を向けない、という説明も添えられます。
代わりに使うのは手か木槌です。硬くなった餅を叩いて欠く。この動作を「割る」と言わずに「開く」と呼ぶのは、縁起の悪い言葉を避けるためです。開くという語には末広がりの含みがあり、よい言い換えとして選ばれました。行事の呼び名そのものが言い換えでできている、というのは面白いところです。所作を変えるのではなく、言葉のほうを変えて筋を通した。日本の年中行事には、この種の工夫がよく見つかります。
硬くなった鏡餅を開く4つの手順
- 表面のカビと汚れを先に確かめます。 カビは見えない部分にも広がっていることがあるため、生えた餅は食べずに処分します。
- 乾いた餅は手でも欠けます。 縁のほうから力をかけると、ひびに沿って分かれていきます。
- 硬すぎるときは半日ほど水に浸します。 中まで水が入れば、木槌でも手でも扱いやすくなります。
- 電子レンジは短く、様子を見ながら温めます。 軟らかくしすぎると餅同士がくっつき、かえって分けにくくなります。
真空パックの鏡餅なら、そもそも硬くなりません。中身が個包装の切り餅になっている製品も多く、その場合は袋を開ける動作がそのまま鏡開きにあたり、形が変わっても、供えたものを下げていただくという筋は通っています。
下げた餅を、何にして食べるか
定番は汁粉やぜんざい、雑煮です。小豆と合わせるのは、赤い色に邪気を退ける力があるとされてきたことにもつながり、細かく欠けたかけらは、油で揚げて塩を振ればかき餅になります。
年始に決めたことが、十日ほど経って早くも遠くなっている。よくある話です。餅を煮ている数分のあいだに、一月一日に思い描いたことを一つだけ思い出してみてください。眺めていた願いを口に運ぶ、という順序の変わり目として、この日はちょうどよい位置にあります。
日付が十一日・十五日・二十日に分かれる理由
ここからは、日付と由来をたどります。
分かれ目になっているのは松の内の長さです。江戸幕府が松の内を七日までとする触れを出し、関東ではこれが定着しました。松が明けてから鏡餅を下げるとなると、十一日あたりが手ごろになります。一方、この触れは関西には十分に浸透せず、松の内は十五日のままとなったため、鏡開きも十五日や二十日に据え置かれました。
もともと広く行われていたのは二十日だったとされます。それが十一日へ移った理由として、徳川家光が慶安四年の四月二十日に没し、月命日にあたる二十日を避けたという説明がよく知られています。ただし、この由来には異説もあり、決着しているわけではありません。京都や滋賀の一部で四日に行うのは、三が日が明けたらすぐ下げるという考え方によるものです。実家と嫁ぎ先で日が違う、といったことは珍しくありません。
もとは甲冑に供えた餅を下げる日だった
武家の家では、正月に鎧や兜を飾り、その前に餅を供える習わしがありました。これを下げていただくのが具足開きです。鏡開きの直接の出自はここにあるとされ、武具に備わる力を体に取り込むという意味づけが語られてきました。
女性は鏡台に供えた餅を下げ、その所作を初顔(はつがお)と呼んだ、という記録も残っています。男は具足、女は鏡台。それぞれ日ごろ向き合う道具の前に供えたものを、同じ日に下げていたわけです。この武家の作法が町方へ広がり、商家や農家でも同じ日に餅を下げるようになりました。いま家庭で行われている形は、その流れの先にあります。
酒樽の蓋を割るほうの鏡開き
祝賀の席で酒樽の蓋を木槌で割る所作も、同じ名前で呼ばれます。樽の蓋を鏡と呼ぶことから来た言い方で、正月の餅とは別の行事です。
こちらは明治以降に広まったとされ、結婚披露宴や落成式で見かける形です。同じ言葉が二つの場面を指すため、案内文を読むときに紛れることがあります。年明けに「鏡開き」と書かれていれば餅のほう、と考えておけば、たいていは合っています。
暮らしの中で試すなら
個包装の餅を使う家庭なら、鏡開きの前に食べる人数と献立を決め、必要な分を用意しておくと当日が楽になります。袋に書かれた保存方法や調理方法も一緒に確かめましょう。食卓では、年始に楽しみにしていたことを一つ話してみます。飾りを下げる日が、家族の今年の予定を聞く小さな機会にもなります。
よくある質問
Q. 鏡開きに包丁を使ってしまったら、やり直しが必要ですか
やり直す必要はありません。刃物を避けるのは武家の行事として育った経緯から来た作法で、守れなかったことをとがめる決まりがあるわけではないからです。
Q. カビが生えた鏡餅は、削れば食べられますか
カビが生えた餅は、表面を削っても食べないでください。見た目ではカビのない部分にも菌糸が広がっていることがあります。食べる分は別の餅を用意しましょう。
Q. 真空パックの鏡餅でも鏡開きになりますか
なります。袋を開けて中の餅を家族でいただくところまでが、この日の中身です。個包装の切り餅が入っている製品も、扱いは変わりません。
出典
- 各地の神社および暦書における鏡餅・年神の依り代についての解説
- 具足開きと初顔に関する近世の年中行事記録
- 松の内の長さと鏡開きの日付の地域差についての各種解説
- 徳川家光の忌日をめぐる鏡開き日付変更説とその異説の記述