小天体と弧のイメージを重ねた夜空を、部屋から眺める人
小さな天体の長い移動を、暮らしの振り返りの目印に。
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聞き慣れない名前の天体が、星座を移る日があるのをご存じですか。

キロンが牡羊座おひつじざを出て、牡牛座おうしざに入る日です。この天体は惑星ではなく、土星と天王星てんのうせいのあいだを大きく傾いた軌道で回っています。見つかったのは一九七七年で、占星術せんせいじゅつの歴史から見ればごく最近の顔かおぶれです。それでも、いまでは出生図しゅっせいずに書き入れる人が増えました。

ただし、今回の牡牛座入りは腰の据わったものとは言えません。 三か月ほどで逆行ぎゃっこうに入り、牡羊座へ引き返します。牡牛座に落ち着くのは翌年の春です。長い滞在の前に一度だけ扉を開けて中を覗く、そんな性格の日にあたります。

キロン牡牛座入りがわかる3つのこと

  1. 一度目の通過にあたります。 三か月ほどで逆行し、いったん牡羊座へ戻ります。
  2. キロンは惑星ではありません。 小惑星しょうわくせいと彗星すいせいの両方の性質を持つ天体です。
  3. 牡羊座には八年ほど滞在していました。 軌道の形のせいで、星座ごとの長さが大きく違います。

一度目の通過で、書き留めておくとよいこと

三か月足らずで戻ってしまう滞在ですが、区切りとして使うぶんには十分です。

牡牛座に振られてきたのは、お金、持ち物、体、そして自分に値打ねうちがあるという感覚です。牡羊座で扱われてきた「自分はどう在るか」から、「自分は何を持っていられるか」のほうへ話が移る、と説明されることが多くあります。

一度目の通過に向く4つの書き出し

  1. お金の話になると身構える場面が、自分にあるかどうか思い出す
  2. 手放せずに置いてある持ち物を、一つだけ選んで理由を書く
  3. 体の不調で我慢しているものを、紙に書き出す
  4. 褒められたときにうまく受け取れなかった出来事を、一つ思い出す

答えを出さなくて構いません。 牡牛座入りが本決ほんぎまりになるのは翌年の春なので、この紙を開き直す機会はまだ先にあります。書いておくことに意味があるのは、そのときに比べられるからです。

一九七七年に見つかった、分類しにくい天体

ここから天体の素性すじょうです。

キロンを発見したのは、アメリカのチャールズ・コワルです。パロマー天文台での観測で、一九七七年十月のことでした。

当初は小惑星として登録され、番号は二〇六〇番。ところがのちの観測で、彗星のようにガスや塵をまとう様子が確かめられ、彗星としての符号も与えられます。小惑星でも彗星でも言い切れない。似た軌道を持つ天体がその後いくつも見つかり、いまではケンタウルス族と呼ばれる一群として整理されています。土星と天王星の軌道のあいだを行き来する天体たち、という位置づけです。

どこにも収まらない、という素性そのものが、この天体に振られた意味と重ねて語られることがよくあります。ただ、それは後づけの読み方だと分けて考えておいたほうが、話が混ざらずに済みます。

星座ごとの滞在期間が、ここまで違う理由

キロンの公転周期こうてんしゅうきはおよそ五十年です。単純に割れば、一つの星座に四年ほどということになりますが、実際はまったく揃いません。

原因は軌道の形にあります。キロンの軌道は円から大きく外れた楕円だえんで、いちばん遠いところでは天王星の外側まで出て、いちばん近いところでは土星の内側に入り込みます。天体は太陽から遠いほどゆっくり動くので、遠い側にいるあいだは進みが鈍り、近い側では一気に駆け抜けます。

その遠い側にあたるのが牡羊座の方向で、キロンはこの星座に八年ほど留まります。反対に天秤座てんびんざの方向は近い側で、通過にかかるのは一年半ほどです。同じ天体なのに、星座によって滞在の長さが五倍以上違います。 牡牛座はその遠い側から中ほどへ向かう途中にあたり、今回の滞在は六年ほどになる見込みです。

「傷ついた癒し手」という読み方が生まれるまで

キロンの名前は、ギリシャ神話のケイローンから来ています。

半人半馬はんじんはんばのケンタウロスのなかで、乱暴者ぞろいの一族には珍しく、医術いじゅつや音楽に通じた賢者として描かれる存在です。多くの英雄の師でもありました。物語では、ヘラクレスの毒矢どくやが誤って当たり、不死の身であるがゆえに死ぬこともできず、傷を抱えたまま生き続け、最後は自らその不死を手放した、と伝えられます。

この筋書きから、占星術のキロンには「癒す力を持ちながら、自分の傷は癒えない」という読み方が与えられました。出生図でキロンが置かれた場所は、その人が繰り返しつまずくところであると同時に、同じ痛みを持つ人に手を差し伸べられるところでもある、という解釈かいしゃくです。

正直に書いておきたいのは、この解釈が広まったのが二十世紀の後半だったことです。発見から十年ほどのあいだに書かれた解説書が下地を作り、一九八〇年代を通じて定着しました。古典占星術には存在しなかった天体ですから、千年単位で受け継がれてきた伝統ではありません。

暮らしの中で試すなら

手放せない持ち物を一つ選んだら、手に入れたときの事情と、今も残したい理由を別々に書いてみます。昔の思い出が大きいのか、今も役立っているのかが分かれます。そのまま保管しておき、次の区切りで読み返すと、物の数とは違う変化も見つけられます。

よくある質問

Q. キロンは惑星ですか

惑星ではありません。小惑星として登録されたあと彗星の符号も与えられた天体で、いまはケンタウルス族という一群に整理されています。

Q. 同じ牡牛座入りが二回あるのはなぜですか

一度入ったあと逆行で戻り、翌年もう一度入り直すためです。落ち着く日についてはキロン牡牛座入り(確定)で扱っています。

Q. 出生図にキロンを入れないといけませんか

決まりはありません。二十世紀後半に加わった新しい道具なので、使う人と使わない人が分かれています。

出典

  • 小惑星センターおよび各種天体暦(キロンの軌道要素と公転周期)
  • キロンの発見に関する天文史資料(一九七七年、チャールズ・コワル)
  • 西洋占星術せいようせんせいじゅつの諸文献ぶんけんにおけるキロンの象意しょういについての解説