
古い暦の本に「大駅土」といった見慣れない言葉が並んでいるのを見たことはありませんか。
己酉(つちのととり)月は、白露に入る日から寒露の前日までの一か月です。ふだんはこの二文字で呼びますが、暦注を扱う本をめくると、まったく違う名前で載っていることがあります。それが大駅土(だいえきど)。納音(なっちん)と呼ばれる分類での呼び方です。
己酉月がわかる3つのこと
- 受け取る側にまわる一か月です。 土が金を生む関係にあり、実ったものが土から出てくる形になります。
- 納音では「大駅土」と呼ばれます。 人や荷が行き交う大きな駅の土、という連想で語られてきました。
- 納音の五行はふだんの配当と揃いません。 別の物差しなので、混ぜて足すと辻褄が合わなくなります。
実ったものを受け止める
己は陰の土で、人の手が入って柔らかくなった土にたとえられます。酉は五行では金。土が金を生む関係なので、下の支が上から養われる形です。実った金属が土から出てくる絵で語られ、収穫や仕上げと結びつけられます。
自分で作るより、実ったものを受け止めて置き場所を決めるほうが合う一か月として説明されます。
己酉月に向く4つのこと
- 手をつけた用件のうち、形になったものを数えて書き留める
- 人から受け取ったものを、返す前提で整理しておく
- 秋の長雨で崩れやすい体調に合わせ、予定の密度を落とす
- 出来上がったものを見せる相手を、一人だけ決めておく
納音とは、六十を三十に組み直すこと
納音は、六十の干支を隣り合う二つずつ組にして、三十のまとまりに分けたものです。それぞれに五行を割り当て、そこへ二字の形容を付けます。海中金、炉中火、大駅土、天河水。名前だけ見ると、風景の目録のようです。
由来ははっきりしていません。中国の古い音韻の理論を応用したものだと説明されますが、なぜその干支にその五行が付くのかを説き明かした資料は残っていないとされます。日本では生まれ年の納音で人を見る使い方が伝わり、暦の欄外に添えられています。
戊申と己酉に付くのが大駅土です。自分のためだけの土ではなく、通り過ぎるものを受け止める土という説明がされます。
火の干支が、水と呼ばれることもある
戸惑うのは、納音の五行がふだんの配当と一致しないところです。
たとえば丙午と丁未は、どちらも火の性質が濃い組み合わせとされます。ところが納音では天河水、つまり水に分類されます。火が水と呼ばれる。理屈の筋が違うところから来た体系なので、そのまま重ねると矛盾して見えます。
どちらかが間違っているという話ではなく、別の物差しが並んでいるだけです。長さを測る道具と重さを測る道具のどちらが正しいかを問わないのと同じで、混ぜて足し算しないほうが混乱しません。
白い露という節気の名は白露にあります。
出来上がったものを、目に見える場所へ
この頃に一区切りついたものを、一つ手元へ出してみます。読み終えた本、仕上げた手仕事、片づいた引き出しの写真。形になったものを眺めると、次に何を始めるかを考える前に、ここまでの時間を振り返れます。
誰かに見てもらいたいものがあれば、その人の顔を思い浮かべてみてください。写真を一枚送る、お茶の時間に話す。受け取ってもらえる場所を考えることも、仕上げの楽しみになります。
よくある質問
Q. 己酉月はどの年に来ますか
丁の年と壬の年の酉月が己酉です。めぐってくるのは5年ごとです。
Q. 納音は今も使われていますか
生まれ年の納音で相性を見る使い方が伝わっています。古い暦の欄外や暦注の本でよく目にする分類です。
Q. 納音と十二運はどちらを優先しますか
成り立ちも時代も別の体系です。全部を足して一つの結論を出そうとすると辻褄が合わなくなるので、どの物差しの話をしているかを分けておくほうが扱いやすくなります。
出典
- 納音(六十干支の三十分類)に関する暦学・暦注の一般的な解説
- 国立天文台 暦計算室「二十四節気および雑節」