
短冊に願いを書いたのに、空を見上げたら一面の雲だった。そんな七夕になっていませんか。
七月七日は七夕です。笹に短冊を吊るし、願いを書いて結ぶ。天の川を隔てた織姫と彦星が、年に一度だけ会える夜として親しまれてきました。ただ、新暦の七月七日は多くの地域で梅雨のただ中にあたり、星が見える年のほうが少なくなっています。
同じ日には小暑(しょうしょ)も来ます。暑さが本格化する手前に置かれた節気で、七夕の陰に隠れがちですが、この時期の空模様を言い当てるにはこちらの言葉のほうが役に立ちます。まずは短冊と笹飾りから見ていきます。
七夕がわかる3つのこと
- 短冊は、もともと手習いの上達を願うものでした。 いまは何を書いてもよい形になっていますが、上達や習い事との相性はいちばんよい日です。
- 五色の短冊には由来があります。 青・赤・黄・白・黒という五行の色に基づき、黒は縁起の面から紫に置き換えられることが多くなりました。
- 星が見たいなら八月がねらい目です。 国立天文台が「伝統的七夕」として案内する日は、おおむね八月に来ます。
短冊に何を書くか
短冊に願いを書く習わしが庶民へ広がったのは江戸時代です。寺子屋が増え、読み書きを習う子どもが多くなったことで、もとは針仕事や機織りの上達を願う行事だった性格が、そのまま手習いの上達へ移りました。願い事なら何を書いてもよいという形は、そのあとに広がったものです。
書くときに少しだけ工夫をすると、笹と一緒に片づかずに済みます。
短冊を書くときの4つの目安
- 願いを一つに絞ります。 数を並べるほど、どれも動き出さないまま夏が終わります。
- 最初の一回をいつやるか、日付まで決めます。 「上手になりたい」より「今月中に一度習いに行く」のほうが残ります。
- 続ける単位を「毎日」ではなく「週に一度」に落とします。 暑い時期に毎日の約束を作ると、たいてい先に体が音を上げます。
- 飾ったあと、片づけるときにもう一度読みます。 書いたことを覚えているかどうかで、翌年の書き方が変わります。
雨の七夕にも、手習いの続きを
空が曇っている夜は、短冊に書いたことを家の中で少し試す時間にしてみます。字をきれいに書きたいなら、好きな言葉を一行。縫い物なら、手元の布でひと針。道具を出すところまででも、願いと今日の時間がつながります。七夕が終わったら、短冊の写真と一緒に「次はいつ続きをするか」を残しておく。八月の伝統的七夕に空を見上げるとき、ひと月のあいだに試したことも振り返れます。
笹飾りと、そうめん
笹竹に短冊を吊るす形は、じつは中国から来たものではありません。竹は成長が早くまっすぐ伸びることから神の依り代とされ、日本で結びついたものと説明されます。折り紙の網飾り、吹き流し、輪つなぎといった飾りにも、それぞれ豊漁や織物の上達といった願いが当てられてきました。
この日にそうめんを食べる習わしもあります。索餅(さくべい)という唐菓子を七月七日に供えた名残という説があり、細く長いものを願いの導線に見立てるのは後からの読み方です。とはいえ、暑い日に台所に長く立たずに済む献立なので、この時期によく合います。
七月七日に天の川が見えないわけ
新暦の七月七日は、旧暦の七月七日より一か月ほど早い時期にあたります。旧暦の七夕はいまの八月ごろに来るため、梅雨が明けたあとの空で行われていました。改暦のとき、日付だけをそのまま新しい暦へ移したので、行事は梅雨の最中へ移動したわけです。
見えにくい理由は雲だけではありません。この時期は日没が遅く、空が暗くなるのを待つころには夜が更けています。さらに月の条件もあります。旧暦では日付と月の形が対応していて、七日はいつも上弦の月でした。上弦の月は夜半前に沈むので、そのあとの空は暗くなり、天の川が見やすくなります。新暦の七月七日は月齢が毎年変わるため、満月に近い年は月明かりで淡い星が消えてしまいます。
八月の「伝統的七夕」
このずれを踏まえて、国立天文台は二〇〇一年から「伝統的七夕」の日を案内しています。旧暦の七月七日に近い日を、いまの暦のうえで定義し直したものです。
決め方は、処暑にあたる瞬間を含む日かそれ以前で、処暑にもっとも近い新月の日から数えて七日目。おおむね八月に来ます。梅雨明け後で晴れる日が多く、月は夜半前に沈み、天の川が見える条件がそろいます。七月七日に星が見えなかった年は、八月にもう一度空を見上げる機会があると考えておくとよさそうです。仙台の七夕まつりが八月に開かれるのも、月遅れという同じ考え方によるものです。
三つの流れが合わさってできた行事
ここからは、七夕がどこから来たのかをたどります。成り立ちは、少なくとも三本の線に分けられます。
一本目は、日本にあった棚機津女(たなばたつめ)の信仰です。水辺に建てた機屋にこもった乙女が神のための衣を織り、村の穢れを持ち去ってもらう。「たなばた」という読みは、この言葉から来たとされます。七夕という漢字と、たなばたという音が結びつかないのは、別々の出どころを持っているからです。
二本目が乞巧奠(きこうでん)。中国の宮廷行事で、七月七日の夜に針や糸を供え、機織りや裁縫の上達を願うものでした。奈良時代に日本の宮中へ入り、貴族のあいだで行われます。
三本目が、織女と牽牛の伝説です。天の川を隔てて暮らす二人が年に一度だけ会えるという話で、これも中国から伝わりました。祓いの信仰、技芸の願い、星の物語。この三つが重なって、いまの七夕になっています。願い事の行事という一面だけを見ていると、もとが祓いの日でもあったことは見えてきません。
同じ日に来る小暑
小暑は、太陽の黄経が一〇五度になる時点を含む日で、七夕と同じ日かその前後に来ます。暑さがこれから強まっていく段階に置かれた節気です。
暑中見舞いを出す期間の起点がここにあります。小暑から立秋の前日までが暑中、そのあとは残暑という区切りが広く使われています。七夕の飾りを片づけたら暑中見舞いの支度、と続けて覚えておくと時期を逃しません。
この節気の七十二候には、温風至(あつかぜいたる)、蓮始開(はすはじめてひらく)、鷹乃学習(たかすなわちわざをならう)が並びます。吹く風の温度が変わり、蓮の花が開き、鷹の幼鳥が飛び方を覚える。梅雨明けが近づく気配を、風と花と鳥で書き分けています。
よくある質問
Q. 短冊の色は選んだほうがよいのでしょうか
五行の考え方に基づく色なので、願いの内容に合わせて選ぶ楽しみ方はできます。ただし色ごとの決まりが厳密に伝わっているわけではないので、好きな色を選んでも差し支えありません。
Q. 笹飾りは、いつまで飾っておくものですか
七日の夜のうちに片づける形が広く伝わっています。翌朝に外す家も多く、地域によっては川へ流したり神社へ納めたりする習わしが残っています。
Q. 八月の「伝統的七夕」の日はどう調べますか
国立天文台が毎年その日を公表しています。処暑にもっとも近い新月から七日目という決め方なので、年によって日付が動きます。
出典
- 国立天文台「伝統的七夕について教えて」における定義と解説
- 乞巧奠および織女・牽牛伝説の伝来についての歳時記の記述
- 棚機津女の信仰に関する民俗研究の記述
- 国立天文台 暦計算室による小暑の定義と七十二候の解説