緑から黄金色へ変わり始めた麦の穂と、紅花
まだ途中の実りにも、小さな満足を見つける。
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満ちる、の前に「小」がついています。

小満しょうまんは、立夏りっかの次に置かれた節気せっき。江戸期えどきの『暦便覧こよみびんらん』には、あらゆるものが満ちてくれば草木の枝葉が繁る、という趣旨しゅしの説明があり、生き物が育って勢いを増す時期を指しています。

ただし満ちきってはいません。「小」の一字が、そこを丁寧に区切っています。 完成ではなく、完成に向かって膨らんでいる途中。二十四節気にじゅうしせっきのなかで、途中経過をわざわざ名前にしたものは多くありません。

小満がわかる3つのこと

  1. 時期は五月二十一日ごろ。 立夏の次で、次は芒種ぼうしゅです。
  2. 秋にまいた麦が実り始める頃。 収穫の見通しが立つ「小さな満足」が語源のひとつとされます。
  3. 沖縄ではこの節気が梅雨の名前。 小満芒種スーマンボースーと書いて、スーマンボースーと発音します。

「小さな満足」から来た、という説

よく語られるのが、麦を軸にした説明です。

前の年の秋にまいた麦が穂を実らせ、収穫の見通しが立つ。凶作きょうさくなら暮らしが立ち行かない時代に、育っている実物じつぶつを目で確かめられたときの安堵あんどは、相当なものだったはずです。ひとまず胸をなでおろす、その小さな満足から小満と呼ばれるようになった、という説が伝えられています。

まだ収穫はこれから。でも、実りを見込めるところまで育った。そう考えると、小満という名前に、小さな喜びを見つけられそうです。家の鉢植えや、続けていることの変化にも目を向けてみたくなります。

満ちきる前に、手を入れておく

膨らんでいる途中というのは、まだ形を変えられるということでもあります。

いま直せる5つ

  1. 進めている物事の要件を、この段階でもう一度確かめる
  2. 増えてきた持ち物や予定から、抱えなくてよいものを外す
  3. 衣類や寝具しんぐを、湿気しっけが来る前に一度だけ風に通す
  4. 育ちすぎた鉢植えを植え替える、伸びた枝を軽く払う
  5. 春に立てた予定のうち、無理が出ているものをひとつ手放す

出来上がってからでは直せないことも、途中なら直せます。 小満を過ぎると梅雨が近づき、体も気持ちも動かしにくくなるので、手を入れるならこの半月が動きやすい時期です。

満足の基準を、下げるのではなく分ける

満ち足りるという言葉を、暮らしのなかで使う機会は多くありません。使うとしても、すべてが揃ったときの話になりがちです。この節気が示しているのは、そういう総合点ではなく部分点の数え方だと思います。

麦は実ったが、稲はこれから。庭は整ったが、仕事は途中。全部が揃うのを待っていると、数え上げる機会はほとんど巡ってきません。そうではなく、いま満ちているものをひとつずつ数える。名前に「小」が入っている節気があるという事実そのものが、そういう見方の後ろ盾になります。

途中の変化を、完成とは別に数える

育てている鉢なら、花が咲く前にも、新しい葉が開いた、枝が伸びたという変化があります。続けている作業も同じように、終わった箇所と次に手を入れる箇所を一つずつ書いてみます。「まだ終わらない」の一言でまとめず、いま見える実りを先に確かめる。そのあとで必要な手入ていれを選ぶと、途中経過にも区切りをつけられます。

沖縄では、この節気が雨の名前になる

沖縄では、小満と次の芒種をつなげた小満芒種という言い方が使われ、スーマンボースーと発音されます。指しているのは梅雨です。

本土ほんどより一か月ほど早く雨季に入る土地では、この二つの節気の期間がそのまま雨の季節と重なるため、暦の言葉が天候の呼び名になりました。

同じ暦を使っていても、土地によって何が季節の主役になるかは変わります。麦の実りを見た土地では実りの名前になり、雨に閉じ込められる土地では雨の名前になる。節気の意味はひとつに固定されていないのだと気づかせてくれる例です。

走り梅雨という前触れ

五月の下旬げじゅんに、ぐずついた天気が数日続くことがあります。これを走り梅雨、迎え梅雨と呼びます。本格的な雨季の前に、南から湿った空気が一時的に張り出して起きる現象で、そのあとにいったん晴れが戻るのが特徴です。

沖縄で小満芒種が梅雨の名前になったのと同じ空気の動きが、本土では前触まえぶれとして現れる。同じ時期に、緯度いどが違うだけで季節の顔つきが変わります。この数日の雨を、梅雨が始まったと早合点せず、支度したくを始める合図として受け取っておくと、六月の入り方が楽になります。

蚕と桑、そして紅花

七十二候しちじゅうにこうでは、この時期に蚕が桑を食べ始める候、紅花べにばなが咲きそろう候が置かれています。かつての日本で、養蚕ようさんと染めは初夏の暮らしを支えた仕事でした。

いまは目にする機会が減りましたが、絹や紅色が特定の季節と結びついていたことを知っておくと、五月下旬の景色は少し違って見えてきます。桑の葉が茂り、紅花が咲き、麦が色づく。小満という節気は、そうした細かい実りの積み重なりに与えられた名前です。

よくある質問

Q. 小満と大満はセットですか

大満という節気はありません。二十四節気で対になっているのは小暑しょうしょと大暑たいしょ、小雪しょうせつと大雪たいせつなどで、小満だけは片方しかない珍しい名前です。

Q. スーマンボースーは沖縄の方言ですか

小満芒種という節気名を沖縄の発音で読んだものです。梅雨そのものを指す言葉として日常的に使われています。

Q. 走り梅雨が来たら、もう梅雨入りですか

まだです。走り梅雨のあとは一度晴れが戻ることが多く、本格的な梅雨入つゆいりは六月に入ってからになります。

出典

  • 『暦便覧』小満の項の記述
  • 国立天文台 暦計算室こよみけいさんしつの節気データ
  • 沖縄における小満芒種(スーマンボースー)の呼称こしょうについての記録