雨に濡れる庭を背景に、青梅とかご、空の保存瓶を並べた台所
雨の季節の入口は、台所や玄関の支度を始める目印に。
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まだ晴れているのに、カレンダーに入梅にゅうばいと書いてあって首をかしげたことはありませんか。

入梅は六月十一日ごろに置かれた暦の日で、雨の季節に入る目安として使われてきました。押さえておきたいのは、気象台が毎年発表する「梅雨入つゆいり」とは、まったく別のものだということです。

あちらは実際の空模様を見て判断される速報で、毎年日付が動きます。こちらは何十年も先まで計算できる、暦のうえの決まった日です。同じ季節を指す言葉が二つあって、片方は動き、片方は動かない。この差を知っておくと、六月の天気予報の受け取り方が少し変わります。

入梅がわかる3つのこと

  1. 日付は六月十一日ごろで、ほぼ動きません。 太陽の位置で決まる暦の項目だからです。
  2. 気象台の梅雨入り発表とは、別のものさし。 何日もずれる年があります。
  3. 雑節ざっせつのひとつです。 二十四節気にじゅうしせっきだけでは足りない日本の事情に合わせて足された暦の日を、こう呼びます。

雨の季節の台所は、傷みが早くなる

昔の人が入梅という目印を置いたのは、雨を眺めるためではありません。この時期から備えを始めなさい、という合図が必要だったからです。 いちばん差が出るのは台所です。

入梅から気をつける5つ

  1. 作り置きの量を減らし、その日のうちに食べきる形にする。 量より回数で回します。
  2. 米や粉、乾物かんぶつを湿気しっけの少ない場所へ移す。 シンク下は温度も湿度も上がります。
  3. まな板とふきんは、晴れた日にまとめて日に当てる。 干す日を逃さないのがこつです。
  4. 冷蔵庫の詰め込みすぎを見直し、冷気の通り道をつくる。 効きが落ちると全部が傷みます。
  5. 生ものと加熱したものを、扱う場所ごと分ける。 気温が上がる時期はここが効きます。

入梅いわしと、梅仕事の季節

この時期に獲れる真いわしを「入梅いわし」と呼びます。産卵前で脂がのり、一年でいちばん味が良いとされる時期です。千葉県の銚子ちょうしはとくに知られた産地で、六月の魚売り場ではこの名前を見かけます。

青梅あおうめが店に並ぶのも同じころです。梅酒や梅干うめぼしの仕込みが始まり、台所が一年でいちばん賑やかになります。名前の由来がどうであれ、暦の言葉と台所の作業が同じ時期を指しているのは確かです。

梅雨寒という、六月の落とし穴

雨の季節に体調を崩す人が多いのは、湿気だけが理由ではないようです。曇りと雨が続くと日照にっしょうが減り、気温が四月なみまで下がる日が出てき、これを梅雨寒つゆざむ、梅雨冷つゆびえと呼びます。

前の週は半袖で過ごせたのに、翌週は上着が要る。この落差らくさが、六月の疲れを重くします。 衣類を早々に夏物へ入れ替えず、薄手の羽織はおりるものを一枚だけ手元に残しておく。それだけで、雨の続く二週間の過ごしやすさが変わります。

雨の日の予定を先に決める4つ

  1. 室内の干し場を一か所決めておく。空気の通る場所を選ぶと乾き方が違います。
  2. 雨の日にだけ読む本や、片づける引き出しを決める。待ち時間が作業時間に変わります。
  3. 靴と傘の手入ていれ道具を、玄関にまとめる。濡れた日にその場で拭けます。
  4. 外の用事を、晴れ予報の日へ寄せておく。天気で崩れる予定を減らせます。

雨の日の帰宅を、玄関から考える

濡れた傘を持って帰る場面を思い浮かべると、用意する物が絞れます。傘を一時置く場所、靴を拭く布、次の日までに乾かしたい物の置き場。外出前に三つを決めておけば、帰宅後に濡れた荷物を持ったまま部屋を行き来せずに済みます。入梅の文字を見つけたら、まず玄関の一角いっかくだけ雨の日用に整えてみてください。

壬の日から、黄経八十度へ

ここから暦の話です。入梅の決め方は、歴史のなかで一度書き換えられています。

江戸時代に使われた貞享暦じょうきょうれきでは、芒種ぼうしゅのあとに来る最初の壬みずのえの日を入梅としていました。壬は十干じっかんのひとつで、陰陽五行いんようごぎょうでは水の性質を強く持つとされます。水に縁のある干支えとを選んで雨の季節の入口に当てたわけで、干支の性質を暦の設計に持ち込んだ例です。

明治九年の暦からは、この定め方が改められました。現在は太陽の黄経こうけいが八十度になる日を入梅とし、芒種と夏至のあいだに来る値で、毎年ほぼ同じ日付になります。

決め方が変わったということは、暦が絶対の定めではなく、その時代に使いやすい形へ組み替えられてきたということでもあります。昔からそのまま続いてきたと思われがちですが、実際には百五十年ほど前に一度作り直されています。

梅の実と、雨の名前

なぜ梅の字なのか。梅の実が熟すころに降る長雨ながあめだから、という説がよく知られています。ほかに、湿気で黴が生えやすい時期なので黴雨ばいうと書き、字の見た目を改めて梅雨にしたという説も伝わります。どれが正しいと決めきれないまま、いくつかの説が並んでいる状態です。

はっきりしているのは、梅の実の収穫期とこの時期が重なることです。暦の入梅から実際の梅雨明つゆあけまで、およそ一か月半。長く付き合う季節なので、初日に完璧な体制を組まなくてかまいません。この日を、支度したくを始めた日として覚えておくくらいで十分です。

よくある質問

Q. 入梅と梅雨入りは同じですか

別のものです。入梅は暦のうえで日付が決まっている日、梅雨入りは気象台がその年の空模様を見て発表するものです。年によっては二週間以上ずれます。

Q. 入梅はいつですか

六月十一日ごろです。太陽の黄経が八十度に達する日と定められているため、毎年ほとんど同じ日付になります。

Q. 入梅の日にすることはありますか

これといった行事は伝わっていません。入梅いわしを食べる、梅を仕込む、湿気の対策を始めるといったところが、この日らしい過ごし方になります。

出典

  • 国立天文台 暦計算室こよみけいさんしつによる雑節の定義ていぎ(太陽黄経たいようこうけい八十度)
  • 貞享暦における入梅の定め方についての暦学れきがくの解説
  • 梅雨入りおよび梅雨明けの発表に関する気象庁の説明