
半年が終わったという実感が、うすいまま七月に入っていませんか。
六月三十日は、一年をふたつに割った切れ目にあたる日です。この日、全国の神社で大祓(おおはらえ)の神事が行われます。夏越の大祓、夏越の祓、名越の祓など呼び名はいくつかあり、地域や社によって使い分けられています。
半年のあいだに知らないうちに積もった罪や穢れを祓い、もとの状態に戻して後半へ入る。 それがこの日の組み立てです。祓というと悪いものを消すように聞こえますが、神道の考え方はもう少し素朴です。人は暮らしているだけで少しずつ汚れる。だから折々に洗って戻す。汚れることを前提にしているところが、この神事の特徴です。
夏越の大祓がわかる3つのこと
- 主役は茅の輪です。 参道や鳥居のそばに、草で編んだ大きな輪が据えられます。
- くぐるのに申し込みは要りません。 立っている期間なら、通りかかった人が自由に通れます。
- 作法を間違えても、効かなくなりません。 くぐり方は社によって違い、一度でよいと案内するところもあります。
茅の輪はいつ立ち、誰がくぐれるのか
多くの社で、六月の半ばから末日にかけて据えられます。七月に入ってもしばらく残す社があり、参道を通る人なら誰でもくぐれます。氏子であるかどうかも、正月に参ったかどうかも関係ありません。
輪の材料は茅(ちがや)です。すすきに似たイネ科の草で、この輪をくぐることで身についた災いが落ちるとされてきました。冬まで残る木ではなく、その季節に生えて枯れる草を使います。 半年ごとに新しく作り替える神事に、季節の草が選ばれているのは筋が通っています。
茅の輪をくぐる4つの手順
広く案内されているのは、八の字を描いて三度通る形です。
- 輪の前で一礼し、まっすぐくぐって左へ回ります。 そのまま元の位置に戻ります。
- もう一度くぐって、今度は右へ回ります。 同じように戻ります。
- 三度目にくぐって、また左へ回ります。 ここまでで八の字が二つ描けます。
- 最後にくぐって、そのまま拝殿へ進みます。 参拝はここから始まります。
唱え詞(となえことば)を掲げている社もあります。「水無月の夏越の祓する人は千歳の命のぶといふなり」という古い歌が使われることが多く、書かれていればそのとおりに唱えれば足ります。案内板が見あたらなければ、静かに一度通るだけで十分です。
祭典に参列することもできる
輪をくぐるだけでなく、六月三十日の祭典そのものに参列を受け付ける社もあります。多くは夕方に営まれ、大祓詞(おおはらえのことば)という長い祝詞が読み上げられます。
前もって形代(かたしろ)を配る社も少なくありません。形代は人の形に切った紙で、名前と年齢を書き、体の気になるところを撫でて息を吹きかけ、社へ納め、これで穢れが紙のほうへ移るとされます。もとをたどれば禊(みそぎ)、つまり水に入って身を清める行いがあり、人が直接水に入るかわりに紙を流す形になった、と考えられています。
三角の菓子が並ぶころ
六月の京都の和菓子屋には、水無月という菓子が並びます。白い外郎(ういろう)の上に甘く煮た小豆を散らし、三角に切ったものです。
三角の形は、氷室(ひむろ)から切り出した氷を写したものと説明されます。旧暦六月一日の氷の朔日(こおりのついたち)に、宮中へ氷が献じられた習わしが背景にあり、庶民が氷を口にできない代わりに菓子で夏越しを願ったという流れです。小豆は古くから厄除けの色として使われてきたので、涼と祓の両方が一つの菓子に入っていることになります。
近年は夏越ごはんという食べ方も広まりました。丸い揚げものを雑穀のご飯にのせ、茅の輪に見立てるものです。二〇一〇年代に提唱された新しい習慣なので、古い由緒があるわけではありません。それでも、この日に何か食べて区切りをつけたいという気持ち自体は、水無月と同じところから出ています。
茅の輪の由来にある、蘇民将来という名前
ここからは由来の話です。備後国風土記の逸文に伝わる説話が、輪のもとになっています。
旅をしていた武塔神(むとうのかみ)が宿を求めたところ、裕福な巨旦将来(こたんしょうらい)は断り、貧しい蘇民将来(そみんしょうらい)のほうが粟の飯でもてなした。のちに神が戻り、蘇民将来の一族に茅の輪を腰につけさせたところ、疫病が広がるなかでその家だけが無事だった、という話です。武塔神は素戔嗚尊(すさのおのみこと)と重ねて語られます。
もてなした側が守られる、という筋書きが芯にあります。厄除けの札に蘇民将来の名を書いて配る社寺もあり、名前そのものが守りの言葉として扱われてきました。腰につけていた小さな輪が大型化して、くぐる形に変わったと説明されます。
初めて訪れるときは、現地の案内から
茅の輪が見えたら、まず脇の案内を読み、前の人との間隔を取ってから進みます。輪をくぐれる期間と祭典の時刻は別々に確認しておくと、当日の予定を組みやすくなります。家族で行くなら、輪をくぐった後に参拝するところまでを一つの流れにしておくと落ち着きます。帰宅後に手帳を開き、半年で終えたことを一つ書くところまでつなげてもよいでしょう。
半年を数え直す
参拝できない年もあります。それでも、この日を半期の締めに使えます。
手帳を一月から順にめくって、この半年で終わったことと、まだ抱えたままのことを分けてみてください。抱えたままの側に、もう手放してよいものが混じっています。誰にも頼まれていないのに続けている用事、返さなくてもよくなった連絡。そこを削るだけで、後半に入る足取りが軽くなります。
体のほうも半年で疲れがたまります。夏に向かう時期なので、水を飲む、風を通す、早めに寝る。祓は、身のうちを整えるところまで含んだ言葉です。
同じ神事は年末にもう一度行われます。そちらとの違いについては大晦日・年越しの大祓で扱っています。
よくある質問
Q. 茅の輪をくぐる回数を間違えました
やり直さなくて差し支えありません。くぐる回数は社によって案内が違い、一度と定めているところもあります。数の正しさより、輪の前で立ち止まって半年を振り返る時間のほうが、この神事の中身に近いところにあります。
Q. 茅の輪の草を抜いて持ち帰ってもいいですか
やめておくほうがよいでしょう。かつて小さな輪を身につけた習わしがあったため草を抜く人がいますが、多くの社がはっきり断っています。持ち帰るものが欲しいときは、社頭で授与される小さな茅の輪の御守を求められます。
Q. 六月三十日を過ぎたら、もう遅いですか
社によっては七月に入っても輪を残しています。日を過ぎてから気づいたときは、まだ立っているかを確かめて参れば差し支えありません。片づけられていても、半年の区切りとして手を合わせられます。
出典
- 神社本庁による大祓の解説
- 備後国風土記逸文にみえる蘇民将来の説話
- 京都の和菓子および氷の朔日に関する一般的な解説