
白い蛇に出会うと縁起がよい、という言い伝えを聞いたことはありませんか。
巳の日は「みのひ」と読み、その日の十二支が巳、つまり蛇にあたる日を指します。十二支は十二日でひと巡りするので、月に二、三度は必ずやってきます。弁財天の縁日とされていて、寺社ではこの日に合わせた祈祷や開帳が行われることがあります。
金運の日として案内されることが多い日です。ただ、たどっていくと、お金より先に芸事と言葉の話が出てきます。弁財天はもともと、水と音楽と学問を受け持つ神でした。 財の話はあとから重なった層で、下にはもう一枚、別の層があります。
巳の日でわかる3つのこと
- 月に二、三度、十二日おきにやってきます。 六十日に一度しか揃わない己巳の日にくらべると、ずっと身近な間隔です。
- 弁財天をまつる社は水辺に多くあります。 江ノ島、竹生島、厳島。島や池の中島に置かれているのは、この神が水と結びついているためです。
- 貯めるより巡らせることが勧められてきました。 水は流れるものなので、財も流れとして語られます。銭洗いの作法にもその考え方が残っています。
銭を洗うという習わし
巳の日にお金を洗う習わしを持つ社寺があります。鎌倉の銭洗弁財天のように、湧き水で小銭を清めて持ち帰る形が知られています。
洗ったお金が増える話として広まりましたが、もとの作法では、清めた銭は使って世に戻すものだと伝えられています。 留めておくのではなく、きれいにして流す。水の神のまわりに置かれた習わしとして、筋が通っています。
家でできる巳の日の4つのこと
遠くの社まで出かけられる日ばかりではありません。手元でできることに置き換えても、この日の性格は損なわれません。
- 財布の小銭を数えて、いくらか賽銭か募金に分けます。 金額はいくらでもかまいません。手元から出す動作を一度入れておくのが要点です。
- 止めている練習を十分だけ再開します。 楽器でも語学でも、道具を出して触るところまでで十分です。
- 得意なことを一つ挙げて、誰にどう届けているかを書き出します。 頼まれることが多い仕事は、たいてい自分の才の側にあります。
- 長く連絡していない相手に、声で用件を伝えます。 弁舌の神とされてきた背景から、声を使うことがこの日には合います。
財布やお金をどう扱うか
財布を新しくする日として巳の日を選ぶ人もいます。金運の日という案内が広まっているぶん、当日は臨時の入金を待つ気持ちが先に立ちがちです。そこで何も起きなければ、空振りの一日として記憶に残ってしまいます。
才の層まで含めて見ておくと、お金が動かなかった日でも、練習が一日進んだという手応えが残ります。次の巳の日にも続けたい練習を一つ決めておくと、日取りが日々の稽古につながります。
蛇が皮を脱ぐのは、体が大きくなって皮が合わなくなるからです。いまの自分に合わなくなったやり方を一つ脱ぐ、という読み方をしてみると、この日は金運より少し広い意味を持ちはじめます。
「才」の側から、一つだけ手を動かす
巳の日を手帳へ書くなら、練習する内容も一緒に残しておけます。楽器なら以前弾いた短い一節、語学なら声に出したかった一文。道具を出すところまで決めると、「上達したい」という願いが今日の予定になります。次の巳の日には同じ箇所を試し、前回より楽にできた部分を一つ記録してみましょう。
受け取る練習をしてみる
弁財天の話には、渡す側と受け取る側の両方が出てきます。日本ではとくに、受け取るほうが苦手な人が多いようです。褒め言葉を打ち消す、謝礼を辞退する、値段を低めに言ってしまう。どれも礼儀の形をしていますが、繰り返すと流れが片方向で止まります。
この日にできることの一つは、その癖を一度だけ止めてみることです。ありがとうと言われたら、どういたしましてで受け取る。相談に応じたときに、正規の額を伝える。断りたい仕事を断って、代わりに得意な仕事を引き受ける。水は高いところから低いところへ流れますが、器がなければ溜まりません。
蛇が弁財天の使いとされるまで
弁財天と蛇の結びつきには、宇賀神という神がかかわるとされます。蛇の体に人の頭を持つ姿で表され、穀物や土地の実りを受け持つ神とされてきました。この宇賀神と弁財天が重ね合わされていく過程で、蛇は弁財天の使い、あるいは弁財天そのものの姿と受け取られるようになったと説明されます。白い蛇を縁起がよいとする言い方も、この流れの延長にあります。
十二支のなかで蛇の日が特別視されたのは、蛇そのものへの見方が古くから独特だったからでしょう。脱皮して姿を新しくする生き物、水辺や田を守るもの、そして家の守り手。土地によって受け取り方は違いますが、多くの場合、蛇には畏れと敬いの両方が向けられていました。
古くから知られる弁財天の社寺を三つ挙げる言い方があり、江ノ島、竹生島、厳島の名がよく並び、数え方には諸説あって一定ではありませんが、いずれも海や湖に浮かぶ島だという共通点は残ります。参拝の日として巳の日を選ぶ人が多いのも、こうした場所と結びついた信仰の名残です。
もとは「弁才天」と書かれていた
この神は、インドのサラスヴァティーという女神にさかのぼると説明されます。河の名を持つ女神で、受け持っていたのは水と、そこから広がる音楽、弁舌、学問でした。日本に伝わった当初も、財ではなく才の字を当てて弁才天と書かれていました。
財の字が定着していったのは、七福神の一人に数えられ、福徳を願う対象になっていく過程だとされます。ですから巳の日を金運の日として読むのは誤りではありませんが、それは後から重なった層です。下の層には、声、言葉、音、手わざといった才能の話がずっと横たわっています。
この二枚の構造を知っておくと、使い方が変わります。収入だけを願う日ではなく、収入のもとになるものに手を入れる日として置けるからです。同じ十二支の日でも、遠くへ出て無事に還ることを重く見る寅の日とは、扱う話がはっきり違います。
よくある質問
Q. 巳の日と己巳の日は何が違うのですか
巳の日は十二支だけを見るので月に二、三度あります。己巳の日は十干の己と十二支の巳が揃う日で、六十日に一度しかめぐってきません。同じ弁財天の縁日でも、間隔がまるで違います。
Q. 銭洗いで清めたお金は、取っておくほうがよいのですか
伝えられている作法では、使って世に戻すほうです。お守りとして財布に入れておく人もいますが、留めることを勧める古い記述は多くありません。水の神をめぐる言い伝えは、動かすほうへ寄っています。
Q. 白い蛇の抜け殻を財布に入れる習わしは、どこから来たのですか
蛇を弁財天の使いとする見方から広まった習わしです。暦の本に書かれた作法ではなく、信仰のほうから来ています。入れておくこと自体は自由ですが、暦の決まりごととは別の話だと知っておくと整理しやすくなります。
出典
- 各種暦書における日の十二支と巳の日の解説
- 弁才天および宇賀神に関する一般的な神仏習合の説明