子どもと年長者の手が、五色の短冊を下げた笹へ紫の短冊を結ぶ場面
短冊を結びながら、今年できるようになったことを一つ。
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去年の短冊たんざくに何を書いたか、覚えていらっしゃるでしょうか。

七月七日は七夕です。笹に色紙を吊るし、願いを書いて結ぶ。天の川をはさんで暮らす二人が、一年に一度だけ会える夜として続いてきました。子どもの行事という印象が強い日ですが、もとは手先の技を上げてほしいと願う、大人の祭りだったことはあまり知られていません。

同じ日には小暑しょうしょという節気せっきも来ます。暑さが強まっていく段階に置かれた区切りで、七夕の飾りを片づけるころに暑中見舞しょちゅうみまいの時期が始まります。

七夕の日に知っておきたい3つのこと

  1. 織姫おりひめと彦星ひこぼしには、空の実在する星が対応します。 こと座のベガとわし座のアルタイル。夏の宵に頭上へ昇ってくる、どちらも一等星です。
  2. 五色ごしきの短冊には、色ごとの割り当てがあります。 五行ごぎょうの考え方から来た配色で、それぞれ書くとよいとされる内容が伝わっています。
  3. 笹飾ささかざりは、一つずつ願いが別です。 吹き流し、網飾り、巾着。飾りの形ごとに祈る中身が違います。

五色は、どの色に何を書くか

短冊の色は、青(または緑)、赤、黄、白、黒の五つ。黒は見た目の縁起えんぎから紫に替えられることが多く、店先で売られている束もその組み合わせが主流です。

この五色に、儒教で説かれる五つの徳を重ねる読み方が広まっています。青は伸びていく力を表し、人として育つことに関わる願い。赤は親や先祖への感謝。黄は人との信を保つこと。白は決めたことを守り抜くこと。黒や紫は学びに関わる願いに向くとされてきました。厳密な決まりというより、選ぶときの手がかりとして扱うのがよさそうです。

短冊を書き終えるまでの5つのこつ

  1. 一枚には一つだけ書きます。 並べて書くほど、どれも動き出さないまま夏が過ぎます。
  2. 上達を願う形にすると、この日の性格に合います。 手に入れたいものより、できるようになりたいことのほうです。
  3. 書く前に、去年の分を思い出してみます。 思い出せなかったなら、書き方を変える合図と受け取れます。
  4. 裏に日付を書き添えます。 一年後に見つけたとき、時間の長さが分かります。
  5. 飾り終えたら写真を一枚だけ残します。 笹は片づいても、写真なら年末まで手元に残ります。

飾りながら、今年覚えたことを話す

誰かと短冊を飾るなら、願いを書き終えたあとに「今年できるようになったこと」を一つずつ話してみます。結び目を作れた、ひらがなを覚えた、久しぶりに針を持った。大きな上達でなくても、手を動かした場面なら思い出せるかもしれません。子どもと飾るときは、色を選ぶ係、糸を通す係など、できるところを分けてみましょう。短冊の写真に、その日の小さな会話も添えると、来年見返す楽しみが増えます。

飾りの一つずつに、別の願いがある

笹に下げる飾りには、形ごとに違う由来がついています。

いちばん大きい吹き流しは、織姫が使った織り糸を表すもの。網の形をした網飾りは、魚がよく獲れるようにという漁の願い。紙で作った着物の紙衣は、裁縫さいほうの上達を祈るとともに、けがれを移して流す役目も持つとされます。巾着はお金が貯まるように、折鶴は家の中の年長者が長生ながいきするように。くずかごは、作業で出た紙くずを入れて、物を粗末にしない心を表したものです。

竹や笹が選ばれた理由もあります。まっすぐ伸びて成長が早く、風で葉が鳴る。神が降りてくる目印として扱われてきた植物で、中国から来た行事と、日本にあった竹への感覚が結びついた形だと説明されます。

織姫と彦星は、どの星のことか

夏の宵、東の空高くに明るい星が三つ並んで見えます。こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブ。これを結んだ形が夏の大三角と呼ばれます。

このうちベガが織姫、アルタイルが彦星にあたります。漢字では織女しょくじょ星、牽牛けんぎゅう星。二つの星のあいだには天の川が横たわっていて、地上から見ると、たしかに川を隔てて向かい合っているように見えます。

ただし、この二つの星は十五光年ほど離れています。 光の速さで進んでも片道に十五年かかる距離で、年に一度の逢瀬という筋書きからすると、ずいぶんな遠さです。星の位置から物語を作った人たちは、その距離までは知らずにいたことになります。

天の川が見えにくい、三つの事情

七夕に星が見えたという年は、思い返すと多くありません。理由は重なっています。

ひとつは季節です。七月七日は各地で梅雨のさなかにあたり、そもそも空が開きません。もうひとつは日付のずれ。旧暦きゅうれきの七月七日は、いまの暦では八月ごろに来ていました。明治の改暦かいれきのときに日付だけを移したので、行事のほうが梅雨へ引っ越した形になっています。仙台のように八月に祭りを開く土地があるのは、この一か月分を戻した数え方によるものです。

三つめが、街の明かりです。天の川は空全体にうっすら広がる淡い光の帯で、街灯や看板の明かりがあると輪郭りんかくが沈んでしまいます。晴れているのに見えない年の大半は、雲ではなく足元の明るさが理由です。旅先や山の上で、初めて見えたという人は少なくありません。

乞巧奠から続いてきた夜

この行事の骨格を作ったのは、中国の乞巧奠(きこうでん)です。巧みさを乞う祭り、という字が当てられています。

七月七日の夜に庭へ机を据え、針と糸、五色の糸、季節の果物などを供えて、機織はたおりや針仕事はりしごとの上達を祈るものでした。願いの中身が技術に寄っているのは、この起源によります。日本の宮中きゅうちゅうに入ったのは奈良時代とされ、貴族のあいだで詩歌や書の上達を願う形に広がっていきました。

そこへ、水辺みずべの機屋はたやで神の衣を織ったという棚機(たなばた)の信仰が重なります。七夕という漢字を「たなばた」と読むのは、別々の出どころが後から一つになった名残なごりです。願い事の日という顔だけを見ていると、この夜がもともと、けがれを流す日でもあったことは見えてきません。

よくある質問

Q. 願い事以外を書いてもよいのでしょうか

差し支えありません。感謝の言葉や、その年に覚えたことを書き留める形で使う人もいます。上達に関わる内容がこの日の性格には近い、という程度に考えておけば十分です。

Q. 笹が手に入らないときは何に飾りますか

枝ぶりの似た観葉植物や、壁に貼った画用紙の枝でも行われています。飾る場所を決めて願いを書くという段取だんどりのほうが、この行事の中身にあたります。

Q. 夏の大三角はいつごろ見えますか

七月なら夜九時ごろに東の空高く、八月に入ると日が暮れて間もない時刻に頭上へ来ます。街中でも、この三つの星だけなら見つけられます。

出典

  • 五色の短冊と五行の対応についての歳時記さいじきおよび民俗みんぞく資料の記述
  • 笹飾りの種類とそれぞれに当てられた願いについての年中行事の解説
  • ベガ・アルタイル・デネブの距離と夏の大三角についての各天文機関の資料
  • 乞巧奠の伝来および棚機の信仰との重なりに関する民俗研究の記述